その110 「おばん」
淡路島の祖父母は 『おんじゃん おばん』と呼ばれていた。
母は5人きょうだいの長女だったが
実母は二十歳(はたち)前に亡くなっていて
おばんは5人の子持ちのおんじゃんのところに
嫁に来たのであった。
これはまったく公然の話であって
かいちゃんも 従兄弟(いとこ)たちも全員が知っていた。
母たちは 「お母さん」と呼んだことはなく
「おばさん」がいつの間にか「おばん」になったらしい。
孫たちは ”おばあちゃん” と呼んでいた。
おばんもやはり再婚だったが 子供はなく
5人の子供を 当たり前のように育てて
孫たちの面倒も当たり前のように見ていた。
かいちゃんも 従兄弟たちも
そういうものなのだと思っていたし
おんじゃんが亡くなったあとも
おばんは死ぬまで 孫たちの”おばあちゃん”だった。