その38 「雛人形」

色あせた箱を開けると古びた雛人形が入っていて、

ぴらぴらした金色の髪飾りや

ざらついた着物の手ざわりを憶えている気がするのだけれど、

母は「うちには雛人形は無かった」と言う。

 

そういえば飾っていたのは母の手作りの木目込み人形で、

赤と青の衣装を着た姫ダルマのような一対であった。

 

祖父母も同居の7人家族だから雛壇を飾るスペースなど無く、

そのかわり母はゆで卵やおにぎりに

海苔や紅ショウガで目鼻をつけて雛祭りを祝っていた。

 

ちらし寿司や、細巻きを藤の花のように並べたのと、

はまぐりの吸い物が三月三日の定番であった。


その37 「テレビ欄」

番組の放送がないとき、

テレビには丸い輪っかと数字の絵が出ていて

ピーという音がしているだけだった。

 

新聞のテレビ欄には番組名が載っていたが、

あちこちに空白があり、薬の宣伝などがはめ込んであった。

『よなき かんむし ひやきおうがん』というやつである。

 

番組の途中でも突然

「しばらくお待ちください」という文字が出たり、

映ったと思ったらまた止まることがよくあった。

 

観たい番組を探すためには新聞を見る必要があったので、

かいちゃんは文字を習得した。

 

毎日、幼稚園から帰ると新聞を見ていたが、

ずいぶん大きくなるまで

テレビ欄が新聞の1面だと思っていた。

 


その36 「白黒テレビ」

テレビの足は4本でとても細かった。

先っちょになるほど細くなるので、

こんな重そうなモノを支えられるのか?と心配になった。

 

チャンネルと同じ大きさのダイヤルと、

音量とか明るさを調整する小さなつまみが付いていた。

 

番組を見ていると、下から上に画面のコマが流れ出す。

ほおっておくとどんどん早く流れるので、

チャンネルの横のダイヤルを回してうまく調整する。

 

白黒テレビというものの

青いセルロイドのようなものを画面の前に付けて、

全体が青く見えていた。

 

鉄腕アトムが大好きでいつも観ていたが

アトムの靴は赤だと知っていたので

頭の中で勝手に赤に置き換えてしまっていて、

「うちのテレビは色が付いている」と思っていた。


その35 「ナショナル冷蔵庫」

幼稚園の頃には電気冷蔵庫が台所にあった。

 

白くてずんぐりしていてカドが丸く、

真ん中あたりにnationalという銀色の文字が嵌まっていた。

 

扉を開けると左上のすみっこに金色の金属の部分があり、

アルミの製氷皿に水を入れてここに置くと氷ができた。

 

下の姉と、製氷皿に水ではなくいろんなものを入れて、

シャーベットを作ろうと試みた。

 

コーヒー牛乳はいつまでたっても凍らなかったし、

粉末ジュースやカルピスは 下半分に味が沈殿して、

水くさくてちっとも美味しくなかった。

 

冷え切った製氷皿や庫内の金属部分に指が触れると

ぴたっと吸い付くようにひっつく感じがする。

 

このまま取れなくなったらどうしようと

どきどきしながら実験をくりかえしていた。


その34 「氷式冷蔵庫」

氷で冷やす冷蔵庫を見たことがある。

5才くらいの頃だと思う。

 

淡路島で寿司屋をやっている叔父の家にあった。

たぶん夏休みに遊びに行ったときのことだ。

 

茶色い木で出来た どっしりしたタンスのような形で、

取っ手は頑丈そうな金属だった。

 

氷屋さんが自転車の荷台に氷を積んで配達にやってくる。

 

大きな氷を細長いノコギリで しゃーこしゃーこと、

冷蔵箱の上の部分にすっぽり入る大きさに切ってくれる。

 

ノコギリが動くたびに霧のように細かい氷つぶが飛んで、

冷やっこくて気持ちがいいので そばに近づいたら、

危ないからあっちへ行ってろ、と叱られた。


その33 「ミント」

姉たちと三人で万博に行ったときのことだ。

 

ニュージーランド館でカップに入ったアイスクリームを買った。

三つとも同じ白色だったので全部バニラだと思ったら

中のひとつがメンソレータムの味だった。

 

「なんだこれは!」と英語の得意な 上の姉が表示をよく見ると、

「MINTと書いてある。ハッカのことだ」

 

残念だがこんな不味いものは捨てるしかない、と

あとの二つを三人で分けて食べていたが、

そのうち誰かが「もうひとくち食べてみよう」と言った

「わたしも、もうひとくち食べてみよう」

「もったいないから、もうひとくち」

と言っているうちに全部食べてしまった。

 

姉たちと一緒に行った万博の記憶はこれだけである。


その32 「フローズンコーク」

クラスの話題はもっぱら『万博に何回行ったか?』と

『月の石を見るのに何時間並んだか?』だったが、

「月の石でも地球に持って来たら地球の石やん」という

ひねくれた考えの者も居た(わたしのこと)。

 

並んでまで何かを見ようという根性は無かったが、

それでも鮮烈な印象はいくつも残っている。

 

その日はなぜか父と二人だった。

そろそろ帰ろうと出口に向かう途中、

スタンドで『フローズンコーク』というものを見つけた。

 

紙コップに入った茶色い かき氷のようなものを

見たこともないような太いストローで飲む。

 

力を入れて吸うと コーラの味がして、

凍っているくせに炭酸がはじけた。

 

父と顔を見合わせて 「美味しいなあ!」と感動したのであった。



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