その45 「石油ストーブ」

9才上の姉が高校受験の年、

かいちゃんの家に石油ストーブがやってきた。

 

全体に円筒形の赤いイメージで

燃焼部分の周りは銀色の金属の網で囲われていて

さわっても熱くないようになっていた。

 

一番下の四角い鉄板の上に赤い丸いタンクが乗っていて、

その上に燃焼部分、一番上は赤い丸い鉄板で、

ここは熱くなるので絶対にさわってはいけない。

いつもヤカンがかけてあった。

 

ダイヤルを回して燃焼部分のレバーを上げ、

中の芯にマッチで火を点ける。

ダイヤルの回し具合で火がぼうぼうとなったり、

なかなか点かなくてぶすぶすと黒い煙が出たりする。

 

360度 暖かいので部屋の真ん中に置いてあり、

目の悪い祖父がそばに座って、よくうたた寝をしていた。

 

今まで暖かいと思っていた火鉢は主役を奪われ、

縁の下の隅に追いやられた。


その44 「蓑虫(みのむし)」

頭まですっぽりと布団にもぐりこんでいると

『”みのむし”みたい』と言われた。

 

”みのむし”は枯れ木の枝によくぶらさがっていたが、

あっちにもこっちにもいる、というほどでもなく

めったにいない、というほどでもなく、

見つけようと目をこらすと「いた、いた」という頻度であった。

 

出がらしのほうじ茶の葉っぱや茎をくっつけたような

長さ2センチ位の紡錘形で、

木の枝から糸のようなもので垂れ下がっていた。

 

中身を確かめようと葉っぱや茎を剥がしていくと

白いねばねばした糸で編んだ袋のようなものが出てくる。

 

中には黒い貧相な虫が住んでいたので、

かいちゃんは気の毒なことをしてしまったと反省し、

”みのむし”は見つけるだけでよし、とすることにした。


その43 「子獲り(ことり)」

寒い時期だけだったかもしれないが、

夜になるとチャルメラの音が聴こえてきた。

 

たぶん夜の8時か9時くらいだったのだろう。

寝ていないこどもを連れに”子獲り”が来ているのだと

かいちゃんは騙されて信じ込んでいた。

 

街灯もあまりない住宅地に音はどこからか響いてきて、

近づいているのか遠ざかっているのか分からないまま

いつのまにか聴こえなくなっている。

全く正体不明のものであった。

 

恐怖を感じるほどではないものの

「たりらーりら たりらりらりー」という旋律は

慌てて布団にもぐりこむにふさわしい、寂しげな音だった。

 

チャルメラというものを知ったのはずっとあとだし、

”子獲り”の姿は結局一度も見たことがなかった。


その42 「なっとう」

物売りの声で思い出すのは竿竹屋さんか

豆腐屋さんの「ぱふーぱふー」というラッパの音ぐらいだ。

 

大阪では納豆を食べないから

”ひみつのアッコちゃん”のエンディングで

「なっとう売りが ア〜ア〜 なっとう〜」 と歌っているのが

何のことかさっぱり分からなかった。

 

近所にSPセンターという市場ができたとき

中に豆腐屋さんが入っていて、

”あぶらげ” や ”ひろうす” と並んで藁に包んだものがあった。

 

「あれはなに?」と母に訊くと「納豆だ」と言う。

アッコちゃんの歌のやつだと思い「買って」と言ったが、

「腐っていて食べられないからダメ」と言われた。

 

あまりにきっぱりと言われたので それ以上食い下がらなかったが、

「くさったモノを売っているなんてヘンだ」と かいちゃんは思った。


その41 「竿竹」

庭には2本の細い電信柱のような木の棒が立っていて、

そこに竿を渡して洗濯物を干していた。

 

母はハンガーのことを『えもんかけ』と言っていた。

 

”えもんかけ”を使わず竿竹に直に洗濯物を通すのが母のやり方で、

シャツやズボンやが人の形でパタパタと風にはためいていた。

 

電信柱のような棒にはカマボコ板が斜めに打ち付けてあって、

そこに竿を掛けるようになっている。

 

母の肩の高さと、その倍くらいの高さと、

もっともっと上に、もう一段あったように思う。

 

木の二股になった部分を切って竹の棒の先に差し込み、

Yの字になったところに竿を引っかけて、

片方ずつ高い段に竿を持ち上げて掛けていた。

 

竿竹は折れてしまうことが多かったのか、

「たけ〜 さおだけ〜 ものほしざおに さおだけ〜」

という売り声が、しょっちゅう町内に流れていた。


その40 「ブルーダイヤ」

「氷の冷蔵庫はウチにもあった」と母が言い出した。

「氷屋さんが氷を届けに来ていた」と言う。

 

母の思い違いではないかと思うが、

台所は当時 かいちゃんの管轄外だったので

憶えていないだけかもしれない。

 

洗濯機に関する記憶が無いのも管轄外だったせいであろう。

 

置いていた場所すら憶えていないのだが、

使っていた洗剤が『ブルーダイヤ』だったことは確かである。

”金銀パール プレゼント”というやつである。

 

ブルーダイヤはタテ長の紙箱で

側面上部が三角に開くようになっていた。

 

母が洗剤を振り出すたびに かいちゃんは

中から”金銀パール”が出てきはしないかと注意して見ていた。

 

箱がカラになるときにはガッカリし、

新しい箱を開けるときにはワクワクした。

 

洗剤の箱ばかり見ていたので

洗濯機のことを憶えていないのかもしれない。


その39 「ダッコちゃん」

ダッコちゃんブームのとき、かいちゃんはまだ2才半くらいだった。

それなのに父が買ってきてくれた日のことを憶えている。

 

かいちゃんが2才だから姉は11才と10才である。

帰って来た父が「ほい」と言って姉に包みを渡し、

姉たちは歓声をあげて喜んだ。

母も嬉しそうだった。

 

かいちゃんはブームのことは分からなかったが、

みんなが喜んでいるので一緒に喜んだ。

 

角度を変えるとウィンクするのが本物で

「ニセモンは目をつぶらないんやで」と姉が言い、

そのダッコちゃんは確かに片目をつぶってウィンクをした。

 

ダッコちゃんは継ぎ目のところがビロビロとはみ出していて、

かいちゃんはそれが妙に不思議な気がした。

 

丸くなった腕であっちこっちに掴まらせたりしていたが、

そのうち継ぎ目のところから空気が漏れてしぼんでしまった。

 

「ニセモンやったんかも」と姉が悔しそうに言った。



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