その174「お年玉」

冬休みが終わって三学期の話題は

『お年玉をいくら貰ったか』だった。

 

お年玉は『玉』というわりに

硬貨ではなく紙幣で貰うのが通常で

ぽち袋にぺらんと一枚、三つに畳んで入っている。

 

紙幣には百円と五百円と千円があって

もしかしたら五千円と一万円もあったかもしれないが

かいちゃんたちの世界では見たことはなかった。

 

かいちゃんの家のあたりは新興住宅地だったが

小学校の近くには古くからの農家が多くて

そういうところは親類縁者が固まって住んでいる。

 

特定郵便局の跡取り息子は

両手の指を折って数えて

「1万2千円」と言って皆を驚かせた。

 

せいぜい3千円くらいしか貰えなかった皆は

しきりに彼のことを羨ましがったが、

「そやけど俺なんか、大きくなったら郵便局員って

決まってんねんで。好きな夢を見れるほうがええわ」

と彼がニヒルに言い放ったので

お年玉の話はそこで途切れた。

 

小学校5年生の始業式の日だったと

はっきりと記憶している。


その173「お屠蘇」

父も母もお酒を飲まない人だったのだが

料理用として家には日本酒が置いてあった。

 

元日にはそれを少しだけ『お屠蘇』に使う。

 

「本当のお屠蘇は味醂に薬草を入れたものだ」 と

毎年、母がそう言いながらお酒を徳利に移す。

 

土瓶に湯を沸かして蓋を取って徳利を浸ける。

「これを『お燗』という」と また母が言う。

 

お燗をするときは 杉の割り箸を

徳利の酒の中に差し込んでおく。

「杉の香りでお酒が美味しくなるのだ」と

これも母の毎年の台詞である。

 

元日の朝 みんなの盃に父がお酒を注ぎ

全員で飲む真似をして

「あけましておめでとうございます」と言う。

 

誰も飲まないのに 杉の香りをつけても

意味が無いではないかと

かいちゃんは毎年 そう思った。

 

余談だが、一度

間違えてお酢を燗してしまったことがあった。

徳利を洗うときまで誰も気づかなかった。


その172 「お正月飾り」

父が自動車好きだったので

けっこう早くから家に車があった。

 

お正月には玄関のところと

車のナンバープレートの上に しめ飾りを付ける。

 

車の前は風が通るように金網状の部分があるので

そこに括りつけるのである。

 

稲わらとウラジロと白いギザギザの紙と

小さな橙が付いているだけなのに

けっこうな値段がするので

母は文句を言いながらも毎年それを買っていた。

 

近所だけがそうだったのかもしれないが

しめ飾りはみんな飾っていたが

『門松』というものは見当たらなかった。

 

お正月休みで閉まっているお店のシャッターに

松と竹の絵が描いてあるので

これのことなのだな、と知ってはいたが、

♪松竹たてて 門ごとに〜 という歌を聴くたびに

実物を見てみたいものだと かいちゃんは思った。


その171 「お雑煮の お餅」

かいちゃんの家のお雑煮は 白みそ仕立てで

焼いていない丸いお餅を入れる。

 

雑煮用の細い大根と人参が入っていて

最後に青海苔を振りかける。

 

おせちは前日までにできているが

お雑煮は元日の朝 作るので、母はやはり忙しい。

 

姉たちは台所やお膳の支度を手伝い、

父は 届いた年賀状を確認している。

 

かいちゃんの元日の初仕事は

お雑煮に入れるお餅を数えることである。

 

おじいちゃんは3個で おばあちゃんは2個

おとうさんは3個で おかあさんは2個

せっちゃんは3個で やえこも3個で

かいちゃんは2個 と指を折って数える。

 

足した数のお餅を台所に持って行くと

母が熱湯で下茹でしてから お椀に入れる。

 

お餅の足し算を間違えると

足りなかったり多すぎたりして

正月早々みんなから非難されるので

これはこれで重要な任務であった。


その170「大晦日」

大晦日の日 母は朝からおせち料理の仕上げをし

父は掃除の気になるところをやり直して

かいちゃんや姉たちは言われるままに

あっちを手伝ったりこっちを手伝ったりする。

 

昼過ぎになると 母はまだ何やかやしているが

かいちゃんたちは暇になる。

 

午後3時になると、歩いて15分ほどのところの

宮山温泉という銭湯が開く。

『温泉』と付いているが水道水を沸かしているだけだと

みんなが言っていたが定かではない。

 

夜は紅白歌合戦を見なければならないし

7人家族全員が入ると大変なので

家に風呂ができてからも

大晦日だけは銭湯に行っていたように思う。

 

お風呂から帰って早めの夕飯を食べ、

紅白歌合戦を見て、遅い時間にまたお蕎麦を食べる。

 

除夜の鐘を聴くまで起きていてもいいよと

許可が出ているのだが

紅白歌合戦を最後まで観るのがやっとで

『ゆく年くる年』という番組の題字を見るや否や

かいちゃんは眠ってしまうのであった。


その169 「ガラス拭き」

暮れの大掃除で必ずやらされたのは

六畳間の掃き出し窓のガラス拭きである。

 

青っぽい円筒の缶に入った液体の洗剤があって

小さなフタに1杯分をバケツ一杯の水に入れる。

たしか ”マイペット” という名前だったと思う。

 

かいちゃんは雑巾をしっかり絞れないので

父か姉が絞ってくれたのを使う。

母はもっぱら台所でお正月の料理を作っている。

 

濡れた雑巾で拭いたガラスは

一瞬きれいになったように見えるが

乾いてくると拭いた跡が白く浮き上がる。

 

少し湿めり気があるうちに

乾いた布でごしごし 擦するといいのだが

木枠に嵌まったガラスは かたかたして拭きにくい。

 

乾いてしまったら、はあっと息を吹きかけて

 白く曇らせてから また擦する。

 

片側ずつ拭いていくのだが

外側と内側と どっちの汚れか分かりにくいし

外側を拭く時には手が かじかんでくる。

 

それでも やり終えると外の景色がくっきりと見えて

父と母も大喜びで誉めてくれるので

やりがいのある仕事ではあった。


その168 「畳と新聞紙」

『暮れの大掃除』のときには畳を上げる。

 

上げたあとの板の上には新聞紙が敷いてあって

かいちゃんは 新聞紙を取り換えるのを手伝った。

 

一年間 敷いてあった新聞紙は黄色く変色していて

アイロンを当てたようにぺらぺらして

触っただけで破けそうに思えた。

 

表面が粉っぽくなっているので

そおっと畳んで小さくまとめるのだが

面白そうな記事があるとつい読み始めてしまう。

 

「早よ せんと 日が暮れる」と母に言われ

元々どうしても読みたいほどのものではないので

畳んで片付けるが、また次の新聞紙で引っかかる。

 

母が板の上に掃除機をかけたあとに

新しい新聞紙を敷いていくのだが

そこでもまた気になる記事が目に付いて

また母に急かされる。

 

日頃は新聞など読まないのに

大掃除のときになると新聞を読みたくなるのは

不思議だと、かいちゃんは思った。



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