その140 「月見草」

かいちゃんたちが月見草と呼んでいた花は

実は待宵草(マツヨイグサ)であったらしい。

 

月がきれいな季節の夕方に咲くし

お月さまのように黄色い色だし

こどもたちは これこそが月見草だと思っていた。

 

庭先にもあったが野原にも咲いていた。

 

つぼみは淡い黄緑色で2センチほどの細長さである。

開く少し前には先っちょが反ったようになって

ほんの少し黄色い色が覗く。

 

いちばん外側の皮をぺりぺりめくると

黄色いつぼみが現れる。

これを「バナナだ」と言って笑い合う。

 

しっかりと巻かれた花びらを剥がしていくと

薄緑色のめしべやおしべが出てくる。

すでにつぼみは ばらばらである。

 

こんなふうにしなければ綺麗に花が開いたのにと

少し可哀想に思いながらも

月見草をみるとちぎらずにはおられない

かいちゃんたちであった。


その139 「運動会とぜんざい」

かいちゃんは運動会が嫌いであった。

 

駆けっこは遅いし、逆上がりはできないし

跳び箱もとべない子が運動会を好きなわけがない。

 

勉強ができない子のことを「あほ!」と言うのは

してはいけないことと戒められていたが、

運動の苦手な子を「どんくさい!」と言うのは

先生も容認していたきらいがある。

 

学校全体を紅白に分けるために

クラスの半分が赤組、半分が白組になる。

運動のできない子は同じ組になった子たちから

「あーあ」と言われるのである。

 

逆に、徒競走で6人ずつの組に分けられた時には

同じ組になった子から「やった!」と喜ばれる。

『どべ(びり)はこの子で確定やな』という意味である。

 

何週間も前から入場行進の練習をするのも

運動会当日、出番が少なくて暇なのも嫌だった。

 

かいちゃんの小学校は運動会の日でも給食があって、

恒例のメニューが『ぜんざい』であったことだけが

唯一のなぐさめだったと云えよう。


その138 「台風と あいやん」

家の前の坂をずんずん下っていくと

千里川という、幅4メートルほどの川があって

うっそうと木々に囲まれていたのが

突然開けて、川沿いに家が建った。

 

ひどい雨台風の翌朝、学校に行くと

「千里川が氾濫して ”あいやん” の家が水に浸かった」

と噂になっていた。

 

”あいやん” は勉強のできる男の子であったが

やたらに激しやすい性格で すぐにカッカと怒るので

『瞬間湯沸かし器』というあだ名が付いていた。

 

『水に浸かった』というのがどういう状態なのか、

ぜひ見てみたいと思っていたら

「危ないので絶対に行ってはいけません」と

先生に先手を打たれてしまった。

 

あいやんは3日ほど休んで学校に来たが

一階の畳を抱えて二階に避難したとか

トイレのスリッパがぷかぷか浮いていたとか

臨場感あふれる話で一躍クラスの人気者になった。

 

同情しながらも かいちゃんは

あいやんがぷりぷり怒りながら片づけている姿を

思い浮かべて くすっと笑った。


その137 「台風と電線」

台風の去った翌朝、電線が道に垂れ下がっていた。

 

あまり太くない木の電柱が傾いていて

黒い電線の端が、たらりと道に垂れている。

 

集団登校の先頭は

交通安全の黄色い旗を持った6年生の班長さんで

「近づいたらあかんよ!」とすばやく制止する。

 

言われるまでもなく いかにも危険そうだったので

いつもはふざけて叱られている低学年の子も

おとなしくまっすぐに歩いた。

 

学校に着くと先生から

「切れた電線に近づくと感電します。

死んでしまうこともあります」と注意を受けた。

 

だれも近づかなくて良かった、と思いながら

「そういうことは台風が来る前に言ってくれないと」と

つぶやく かいちゃんであった。


その136 「台風と断水」

台風で断水したことを鮮明に憶えている。

 

「給水車が来たよー」と近所の人が声をかけて回って、

玄関を出てみると家の前の空き地に

小型のタンクローリーのような自動車が停まっていた。

 

姉たちがいたかどうかは憶えていないのだが、

母がバケツを持って水を貰いに行こうとしている。

 

少しでもたくさん欲しいから

ちっちゃな かいちゃんも『やかん』を持たされた。

 

暴風雨は去ったあとだが まだ雨が降っているので

両手が使えるように黄色い雨合羽を着せられた。

 

タンクの横っ腹の下のほうに蛇口があって

じゃぼじゃぼと水が流れ出ている。

 

いちいち蛇口を閉めたりしないで

「はい、次!」「はい、次」というように

バケツだの鍋だのに 係りの人が水を入れていく。

地面にこぼれる水がひどくもったいなく思えた。

 

やかんに入れて貰った水を

こぼさないように持って帰ろうと努力したが

歩くたびに口からじょびじょび あふれてしまって

かいちゃんは自分の非力さを 情けないと思った。


その135 「台風とトランプ」

台風で停電になった夜に

姉たちとトランプをした記憶がある。

 

かいちゃんが小学校三年生の頃には

上の姉はもうお勤めをしていたので、

姉妹が三人揃ってトランプをしたのは

それ以前のことだったと思う。

 

その頃にはまだ家にお風呂がなくて

夕飯を食べ終わっても停電が続いていて

することもないのでトランプを始めたのであった。

 

かいちゃんはまだルールがよく分からなくて

ババ抜きと神経衰弱くらいしかできない。

 

ポーカーと”しちならべ”も知ってはいるが

こういうのは下の姉が強くて

しかも情け容赦なく勝とうとするので

かいちゃんは あまりやりたくない。

 

遊んでいるうちに電気が復旧したのか

眠くなって寝てしまったのかは憶えていないが、

雨戸がこわれそうに がたがた言う中で

ろうそくのちらちらする灯りに照らされた

白いカードの模様を憶えている気がする。


その134 「台風とろうそく」

秋になると台風がやってきて

台風が来ると停電になった。

 

停電になるのは分かり切ったことだし

お風呂も炊飯器もほとんどがガスだから

不便なのは灯りくらいのものである。

 

ろうそくに火をつけて

お皿の上に ”ろう” をぽたぽたと垂らし、

ろうが熱いあいだにろうそくを立てる。

 

ろうそくの灯りはゆらゆらと揺れるので

人が動くと部屋中が伸びたり縮んだりして

いつもとすっかり違って見える。

 

お風呂に入るときは湯船のふたを半分閉めて

その上にろうそくのお皿を乗せる。

お湯がかかるといけないので

髪の毛も体も洗わないことにする。

 

それなら何のためにお風呂に入るのかというと

湯船から立ち上る湯気のせいで

霧の中で入浴しているような気分を

味わうために他ならない。



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