その51 「着せかえ人形」

紙でできた着せかえ人形を売っていたのは

文房具屋さんだったか駄菓子屋さんだったか、

マンガ雑誌の付録だったのかもしれない。

 

紙の人形であっても、そうそう買って貰う訳にはいかない。

無駄遣いは母から厳重に戒められていた。

 

下の姉がノートの紙で着せかえ人形を手作りしてくれた。

学年が上がる時にはノートを新しくするから、

白いページが残ってくるのである。

 

姉はたいして絵は上手くなかったが、

色エンピツで色を付けると”それなり”になって

かいちゃんは”それなり”に満足した。

 

残念なのはノートだからうっすらと横線が入っていることで、

それが”それなり”の最大の理由であった。


その50 「ポニーテール」

かいちゃんは20センチほどの背丈の人形を持っていた。

 

まだリカちゃんが売り出される前の

洋風ではあるが日本人体系の女の子の人形で、

柔らかいビニールで出来ていて髪の毛は茶色だった。

 

腕と足と首は胴体に差し込むようになっているので、

360度回転させることができる。

 

髪型がポニーテールなのは

生え際というか、 頭の周囲にしか植毛されていないからで、

リボンをほどくと落ち武者のような髪型になる。

 

かいちゃんは人形でお風呂ごっこをするのが好きだった。

洗面器に水を入れて人形を洗ってやるのだが、

接続部分からお湯が入るので水から出したあとは

各部分を引き抜いて内部を乾かさなければならない。

 

バラバラにしてポニーテールをほどいた人形は

時代劇のさらし首のようだなと、かいちゃんは思った。


その49 「ポン菓子屋さん」

幼稚園とは反対側の向かいに、家一軒分の空き地があった。

ここにポン菓子屋さんが来たことがある。

 

横に細長い機械のようなものを設置して

おじさんが大きなハンドルをぐるぐる回していた。

 

機械の半分は鉄人28号のような金属のかたまりで、

あとの半分は金網でできていた。

 

しゅうしゅう湯気が出ていたり、そばに行くと熱かったので、

「ちいちゃい子は近づいたらあかん」と言われた。

 

家からお米を持っていき、順番を待っていると

『どん!』というとんでもなく大きな音がした。

 

ほんの少しのお米が大量のぽん菓子に変わり、

「これはすごいものだ」と感心した。

 

音がうるさくてイヤだったので早々に家に入り

姉と一緒にポン菓子を食べたが、

静電気のせいか手や顔にくっつきまくって 「

珍しくはあるがたいして美味しいものではないな」と、

かいちゃんの感動はすぐに冷めた。


その48 「散髪屋さん」

散髪屋さんの店名は『理容おおなろ』だった。

 

近所のお店は「肉のいしい」とか「いけうち商店」とか

よくある名前が付いていたから、

「『おおなろ』ってヘンな苗字」と思っていた。

 

散髪屋さんはちょっと不思議なところだった。

 

お店の人がお医者さんのような服を着ている。

 

太い皮のベルトのようなものが壁に掛かっていて、

時々カミソリでそれをひゅんひゅんと撫ぜる。

 

白くて四角い陶器のコップに筆のようなものを入れて

しゃかしゃか掻きまわすと白い泡がむくむくと出てくる。

 

極めつけは店の前にある円柱型の看板で、

赤と青の帯が下から上へ、くねくねと上ってゆく。

 

「あれは赤と青と白の三色なのだ」と姉が言ったが、

かいちゃんにはどうしても

赤と青の二色だけが動いているように見えた。


その48 「散髪屋さん」

散髪屋さんの店名は『理容おおなろ』だった。

 

近所のお店は「肉のいしい」とか「いけうち商店」とか

よくある名前が付いていたから、

「『おおなろ』ってヘンな苗字」と思っていた。

 

散髪屋さんはちょっと不思議なところだった。

 

お店の人がお医者さんのような服を着ている。

 

太い皮のベルトのようなものが壁に掛かっていて、

時々カミソリでそれをひゅんひゅんと撫ぜる。

 

白くて四角い陶器のコップに筆のようなものを入れて

しゃかしゃか掻きまわすと白い泡がむくむくと出てくる。

 

極めつけは店の前にある円柱型の看板で、

赤と青の帯が下から上へ、くねくねと上ってゆく。

 

「あれは赤と青と白の三色なのだ」と姉が言ったが、

かいちゃんにはどうしても

赤と青の二色だけが動いているように見えた。


その47 「巨人の星」

祖父を近所の散髪屋さんに連れて行くのは

小学生になった かいちゃんの仕事であった。

 

1年生の中でも ちっちゃっこい かいちゃんが

目の悪い祖父の手を引いて歩いていると

「えらいねえ」と近所の人が声をかける。

かいちゃんはそれが恥ずかしくていやだった。

 

楽しみだったのは散髪屋さんに

少年マガジンが置いてあったことだ。

 

祖父が散髪に行くのはひと月かふた月に一度だから

待っている間に「巨人の星」を古い号から順に読む。

 

散髪が早く終わると読み残して帰ることになるので

一生懸命、読んだ。

 

祖父が亡くなったのは かいちゃんが6年生の時だったから、

「巨人の星」の連載の ほとんど初めから終わりまでを

散髪屋さんで読んだことになる。


その46 「氷砂糖」

祖父母の部屋は玄関を入って右の四畳半だった。

 

祖父は淡路島で自動車の修理工場をやっていたらしい。

晩年は緑内障のためにすっかり視力を失っていた。

 

不思議だったのは祖父が日記をつけていたことだ。

 

わら半紙だったかチラシの裏だったかに、

文字列が曲がらないように物差しをあてて

毎日なにかを書きつけていた。

 

かいちゃんはまだ字が読めなかったので

なにが書いてあるかは分からなかったが、

「目が見えないのに字を書くなんて偉い」と思った。

 

祖父の部屋に遊びに行くと

氷砂糖のいっぱい入った袋を差し出して

「一個、取り」と言ってくれる。

 

氷砂糖は甘いばかりで、

キャラメルやラムネに慣れた口には物足りないが、

大小さまざま、透明にキラキラ光っているのが嬉しくて、

「ありがとー」と大きなのを選んで口に入れた。



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