その168 「畳と新聞紙」

『暮れの大掃除』のときには畳を上げる。

 

上げたあとの板の上には新聞紙が敷いてあって

かいちゃんは 新聞紙を取り換えるのを手伝った。

 

一年間 敷いてあった新聞紙は黄色く変色していて

アイロンを当てたようにぺらぺらして

触っただけで破けそうに思えた。

 

表面が粉っぽくなっているので

そおっと畳んで小さくまとめるのだが

面白そうな記事があるとつい読み始めてしまう。

 

「早よ せんと 日が暮れる」と母に言われ

元々どうしても読みたいほどのものではないので

畳んで片付けるが、また次の新聞紙で引っかかる。

 

母が板の上に掃除機をかけたあとに

新しい新聞紙を敷いていくのだが

そこでもまた気になる記事が目に付いて

また母に急かされる。

 

日頃は新聞など読まないのに

大掃除のときになると新聞を読みたくなるのは

不思議だと、かいちゃんは思った。


その167 「プレゼント」

24日の夜、寝る前に枕元に靴下を置いておく。

朝になると靴下の中にプレゼントが入っている。

これが かいちゃんの家の

クリスマスのルーティンであった。

 

靴下といっても子供用だと小さいので

お腹のところまであるタイツを置いておく。

 

お尻の部分が びよんと伸びて

中にプレゼントが押し込んであった。

 

毎年もらっていたはずなのに、憶えているのは

ドッジボールと大きな抱き人形とお菓子である。

 

ボールも人形も 本当に欲しかったので

クリスマスの朝に目が覚めて

靴下の中に見つけた時には狂喜乱舞した。

 

お菓子をもらった年は サンタさんにお願いするのを忘れていて

「もう遅い」と母から言われて

お菓子になってしまったのであった。

 

サンタの存在が半信半疑だった かいちゃんは

このことでサンタクロースの不在を確信した。


その166 「クリスマスケーキ」

駅前の「パルナス」で買ったクリスマスケーキは

バタークリームという ずっしりしたクリームで

たくさん食べると胃が ずしんと重くなる。

 

ケーキの上には家のかたちのお菓子が乗っていて

ろうそくはサンタの恰好をしていた。

 

サンタろうそくに火をつけてもらい

電灯を消してツリーの電飾を点灯させたら

見慣れた茶の間が別世界のようだった。

 

少しするとサンタは頭のほうから溶けてきて

四谷怪談のお岩さんのようになってしまう。

 

ケーキが ろうそく臭くなる、と姉が言うので

吹き消して部屋の電灯をつける。

 

部屋が明るいのにツリーの電飾はもったいない、

と母が言って点灯を消す。

 

姉と争って手に入れた家のかたちのお菓子は

外側だけのスカスカで、甘くもなんともない。

 

現実はこんなものなのだなと

かいちゃんは妙に納得しながら

母が切り分けてくれたケーキを食べた。


その165 「ツリーと電飾」

クリスマスツリーを購入した翌年だったと思うが

父が『電飾』を買ってきた。

 

緑色の細い電気線が2本、うねうねと絡まっていて

ところどころに1センチくらいの円錐形のものが付いている。

 

円錐形はぎざぎざしたガラスかプラスチックで

赤と青と黄色の3種類があった。

 

ツリーにこの電気線を絡ませて

端っこの差込プラグをコンセントに差し

父が部屋の電灯を消した。

 

円錐形の内部の電球が円錐形のぎざぎざを通して

赤と青と黄色に光り、さらにしばらくすると

赤と青と黄色が、点いたり消えたりし始めた。

 

それはまるで

母に連れられて梅田にお歳暮を買いに行った帰りに

電車の中から見える ネオンサインのようで

こんなものが個人で所有できるのか、と

かいちゃんはとても豪華な気分になった。


その164 「ツリーと脱脂綿」

クリスマスツリーとセットだったのか

きらきらした丸い玉とモールがあって

それを適当にぶら下げる。

 

押入れの中に薬箱を仕舞ってある棚があって

そこにはいつも脱脂綿が置いてある。

 

脱脂綿は透明の袋に四角い形に入っていて

取り出して そろっと剥がすと

薄いかまぼこ板の形である。

 

ケガをした時にはオキシフルを染み込ませるし

鼻血が出た時にも使う。

 

そういうときは端っこをちょっとちぎるだけだが

雪のかわりとして使うので

母が大盤振る舞いで たっぷりくれる。

 

雪っぽく見えるように ちぎらなければならないが

繊維が絡んでいるので思うとおりの形にならない。

 

かいちゃんはすぐに飽きてしまって

あとの飾りつけは姉に任せてテレビを見ていた。


その163 「クリスマスツリー」

12月の或る日

父がクリスマスツリーを買ってきた。

 

幼稚園にはツリーもあったし

クリスマスの飾りつけがしてあったが

家庭用のツリーがあるなどとは思ってもみなかったので

かいちゃんはひどく驚いた。

 

高さは40センチくらいだったと思う。

針金に緑のびろびろした紙をまいたもので

たたまれた枝の部分を広げると

すかすかではあるが木らしくなる。

 

足元も枝と同じような状態で

台があるわけではなく、広げて立てる。

 

てっぺんの星は厚紙で出来ていて

銀色に塗ってあって立体的に作ってある。

下の部分が円筒形になっていて

ツリーの先っちょに、ぐいと差し込む。

 

クリスマスツリーがあるだけで

典型的な昭和の日本家屋が西洋風になったようで

かいちゃんは非常に興奮した。


その162 「降誕劇」

カトリックの幼稚園に通っていたので

クリスマスには降誕劇をした。

 

マリア様とヨセフさんが旅をしているのだが

赤ちゃんが生まれそうなのに泊まる宿屋がなくて

馬小屋を貸してもらえたので そこでイエス様が生まれ

羊飼いたちと三人の博士がお祝いにくる場面である。

 

かいちゃんはマリア様になりたかったが

その他 大勢の羊飼いだった。

 

羊飼いは頭から布をかぶっているので

各自、家から持ってきてください と言われ

母がカーテンをはずして持たせてくれた。

 

ベージュに大きなチョウの飛んでいる柄で

あまりふさわしい柄ではないなと子供心に思った。

 

カトリックなのでマリア様は大切にされていて、

ヨセフさんはお父さんなのに

「様」ではなくて「さん」づけで

ちょっと気の毒な気がした。



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