その129 「朝顔」

庭のどこに朝顔の蔓(つる)を這わせていたのか

記憶が定かでない。

 

朝起きると「今日はいくつ咲いた?」と

を数えるのが 夏の日課であった。

 

開く前の朝顔は散髪屋さんの看板のようで

白と青紫がぐねぐね模様になっている。

 

ぴんと張ったような丸い花は

同じ蔓に付いていても

赤だったり青だったり紫だったりする。

 

花をむしってガラスのコップに入れ

割りばしでぐちゅぐちゅ つつくと

きれいな色の水ができる。

 

つぼんだ花の先っちょを ぎゅっとつまんで

がくに付いていたところからぷっと息を吹き込むと

ぽん!と音がして白い部分が裂ける。

 

すっかり枯れてしまったら種が取れるし、

かいちゃんは朝顔が大好きであった。


その128 「夏休みの天気」

「夏休みの友」には天気を記録する欄があって

晴れの時はお日さまマーク、雨の時は傘マーク、

曇りの日には雲の絵を描くことになっていた。

 

夏休みの宿題をやり残して

八月の末に慌てるということはなかったが

天気の欄だけは ほとんど空白のままだった。

 

宿題をちゃんとやるくらいなら

天気を記録するくらい簡単ではないのか?

と思うかもしれないが、問題はそう単純ではない。

 

朝は曇っていたとしても昼にはかんかん照りになり

いきなり夕立が来て そのあとに虹が立ったら

小さなマスの中にはなんと書けば良いのだ?

 

かいちゃんは どのマークを記入するか悩み、

「今からまだ雨が降るかもしれない」と思うと

寝る前に記入することもためらわれた。

 

翌朝になると きのうの天気など覚えてはいない。

 

かくして、朝からずっと晴れていた日と

ずっと雨が降っていた日以外は

いつまでも空欄のままなのであった。


番外編「これが ”かいちゃん” だ!」

かいちゃん

JUGEMテーマ:回想


その127 「夏休みの友」

「夏休みの友」のことを かいちゃんは

「夏休みの敵」と呼んでいた。

 

勉強は嫌いではなかったが

宿題はとにかく めんどくさかった。

 

なかでも嫌なのは漢字の練習である。

「夏休みの友」とは別に『漢字練習帳』があって

1学期にならった漢字を10個ずつ書く。

 

そんなに書かなくても覚えられるではないか!

かいちゃんは効率の悪いことが嫌いであった。

 

『花』という漢字を10個書くには

『一』をまず10個書く。

次にそれに『ちょんちょん』を付ける。

カタカナの『イ』を10個書く。

最後にカタカナの『ヒ』を書く。

 

こんなことをしても書き順も覚えられないし

まったく無駄なことだと

 かいちゃんはうんざりしながら

四角いマスを埋めていった。


その126 「地蔵盆の手品師」

ある夏の地蔵盆に手品師がやって来た。

 

集会所には舞台は無かったと思うが

子供たちは床にぺったりと座っているので

おとなが前に立つととても大きく見える。

 

手品師は怪人二十面相のようなマントを着て

ぴかぴかのシルクハットをかぶっていたので

『手品師じゃなくて奇術師かもしれない』と

かいちゃんは過度な期待を抱いた。

 

ステッキを花に変えたり、切れた紐をつなげたり

意外とちゃっちいなと思っていたら突然、

手のひらから銀色の蜘蛛の糸のようなものを

ぱーっと客席に向かって広げて投げた。

 

これには子どもたちも狂喜乱舞し

蜘蛛の糸をつかもうとする子もいたが

手品師はくるくると糸を丸めてコップに入れ、

水だか、お湯だかを注いだ。

 

うどんのようになった蜘蛛の糸を

ずるずると美味しそうに食べる手品師を見て、

「あのうどんはどんな味なのだろう」と 

かいちゃんは それが無性に気になった。

 


その125 「地蔵盆」

8月の終わりには『地蔵盆』があった。

 

町内の片隅にお地蔵さんが

いつもはひっそりと鎮座しているのだが

この日だけはお供え物が山のように置かれる。

 

回覧板で『地蔵盆のお知らせ』が回っているので

朝からお地蔵さんのところに行って

お供え物がずんずん増えていくのを確認する。

総量が多くなれば分け前も多くなるから

ここが重要なところである。

 

お地蔵さんは年中、色あせた前掛けを掛けているが

新しい赤いのを新調してもらっている。

 

夜には子供のための催しがあるので

早めに夕飯を食べて集会所に集まる。

 

それほど遅い時間ではないはずだが

夏至をとうに過ぎているので真っ暗である。

みんな懐中電灯を持って来ている。

 

催し物はほとんど どうでも良くて

帰りに お供え物のお菓子を袋に詰めたものを貰う。

 

袋いっぱいのお菓子は、たいへん嬉しいのだが

お年寄りが買ってきたもののせいか

もなか とか 、まんじゅうとか 、ゼリーとか

ちょっと古臭い感じのものばかりだなあ、と

かいちゃんたちは噂していた。


その124 「ようせいゴラス」

「今年の町内の映画会は『ようせいゴラス』だ」と

姉が回覧板を見て教えてくれた。

 

幼稚園でキンダーブックを読破するほど本好きだった

かいちゃんは喜んだ。

 

”ようせい”というのはおとぎ話に出て来るやつのことだ。

有名なのはティンカーベルだが

コロボックルというのがいるのも知っていた。

その年の映画会は ことのほか楽しみであった。

 

映画がはじまると宇宙とか地球が映ったので

「まんが映画じゃなくて特撮なのだな」と思った。

 

大きな彗星が飛んできて地球にぶつかる!という話で

南極に噴射装置を設置して地球を動かすという

人類の英知を結集する対策が取られるのであった。

 

「妖精はいつ出てくるのだ?」と思いながら

かいちゃんは最後まで観た。

 

終わってから ハッ!と気がついて、姉に

「妖精が出てこなかった」と苦情を言うと

「こういうのをSFと言う」と、したり顔で言われた。

 

最初から教えてくれたら良かったのに と思ったが

妖精が出てこなくても『妖星ゴラス』は面白かったので

良しとすることにした。



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