その144 「雨の日の祭り」

春日神社の秋祭りは10月の12日で

台風や秋雨のシーズンだが

たいてい晴れていて滞りなく行なわれた。

 

一度だけ 朝から雨が降っていたことがあって

「今日はお祭りはあるのか?」と

かいちゃんたちは授業も上の空で心配していた。

 

帰り道、友だちと一緒に神社に寄ってみると

果たして境内には屋台の気配すらなく

見慣れた石段や玉砂利が

しとしと濡れているばかりである。

 

拝殿に神主さんや巫女さんらしき人がいたので

かいちゃんたちは勇気を出して

「今日はお祭りはないんですか?」と訊いてみた。

 

「お祭りはあるよ」と神主さんは言う。

「お祭りは神様を祀るんだからね。

雨が降ったからといってお祭りはある。

屋台は出ないけどね」

 

確かにそれは正論かもしれないが

そういうことを聞きたいのではない、と

かいちゃんは密かに憤慨した。


その143 「お祭りの日」

7月と10月の12日は春日神社のお祭りだった。

 

神社は小学校からの帰り道にあるので

学校のあるときはちょっと覗いてゆく。

 

張りぼてのような屋台を建てている最中だったり

りんごあめ屋さんなどはもう作り始めていたり

砂埃をたてながら発電機が回っていたりする。

 

ともだちと「じゃあ夜にね」と約束をして別れるのだが

時間も場所も決めるわけではなかった。

行ったら誰かと会えるし

会えなくてもいっこうに構わない。

 

翌日、学校で「誰々ちゃんと誰々くんと会った」

「私は誰々ちゃんと会った」と指を折って

何人のともだちに会えたのかを競い合う。

 

クラスの人気者の『〇〇君に会えた』という話を聞いて

「ちっ!時間をずらせばよかった」と女の子たちは

心の中で思うのである。


その142 「春日神社」

家から10分ほど歩いたところに

春日神社という小さな神社があった。

 

奈良の春日大社とはたぶん無関係で、

宮山町と春日町の間に立っているので

そういう名前だったのだと思う。

 

神社に縄張りがあるのかどうか知らないが

このあたりで生まれた子供は自動的に

春日神社の氏子(うじこ)になるのであった。

 

氏子だからといって どうということもなく

秋祭りの前になると『寄付のお願い』をしてくるのと

七五三や初詣のお誘いが来るくらいである。

 

かいちゃんの家には仏壇と位牌はあるものの

カトリックの幼稚園に通っていたくらいだから

宗教的なポリシーは皆無だったと言える。

 

春日神社には大きな木がいっぱい立っていて

いつもしんと静かだったが

どんぐりがざくざく落ちていたり

『グリコ』をするのにちょうどいい石段があった。

 

かいちゃんたちはきゃあきゃあ言いながら

境内を走り回っていたが

神主さんに叱られた覚えはない。


その141 「栗拾い」

幼稚園で栗拾いに行ったことがある。

秋の遠足として バスで出かけたと思う。

 

前日からいろいろな噂が飛び交っていて

拾った分はまとめてみんなに分配するとか

栗はひとり10個までと決まっているとか

園児の間でまことしやかに囁かれていた。

 

栗拾い園に行くと いがいがの栗は落ちてなくて

つやつやした茶色の栗が 園児のために

いかにもわざとらしく ばら撒かれていた。

 

なんという子供だましだと少し腹を立てて

かいちゃんは栗を拾わずにぶらぶらと遊んでいた。

拾わなくてもどうせ10個ずつ配られるのだと

たかをくくっていたのであった。

 

10個未満しか拾えなかった子は帰りのバスの中で

先生から10個になるように栗を足してもらった。

ひとつも拾わなかったかいちゃんも10個もらった。

 

唯一の誤算は10個以上拾った子は

多いからといって取り上げられることはなく

拾った分を全部持って帰れることだった。

 

こんなことなら頑張って拾えば良かったと

かいちゃんは激しく後悔した。


その140 「月見草」

かいちゃんたちが月見草と呼んでいた花は

実は待宵草(マツヨイグサ)であったらしい。

 

月がきれいな季節の夕方に咲くし

お月さまのように黄色い色だし

こどもたちは これこそが月見草だと思っていた。

 

庭先にもあったが野原にも咲いていた。

 

つぼみは淡い黄緑色で2センチほどの細長さである。

開く少し前には先っちょが反ったようになって

ほんの少し黄色い色が覗く。

 

いちばん外側の皮をぺりぺりめくると

黄色いつぼみが現れる。

これを「バナナだ」と言って笑い合う。

 

しっかりと巻かれた花びらを剥がしていくと

薄緑色のめしべやおしべが出てくる。

すでにつぼみは ばらばらである。

 

こんなふうにしなければ綺麗に花が開いたのにと

少し可哀想に思いながらも

月見草をみるとちぎらずにはおられない

かいちゃんたちであった。


その139 「運動会とぜんざい」

かいちゃんは運動会が嫌いであった。

 

駆けっこは遅いし、逆上がりはできないし

跳び箱もとべない子が運動会を好きなわけがない。

 

勉強ができない子のことを「あほ!」と言うのは

してはいけないことと戒められていたが、

運動の苦手な子を「どんくさい!」と言うのは

先生も容認していたきらいがある。

 

学校全体を紅白に分けるために

クラスの半分が赤組、半分が白組になる。

運動のできない子は同じ組になった子たちから

「あーあ」と言われるのである。

 

逆に、徒競走で6人ずつの組に分けられた時には

同じ組になった子から「やった!」と喜ばれる。

『どべ(びり)はこの子で確定やな』という意味である。

 

何週間も前から入場行進の練習をするのも

運動会当日、出番が少なくて暇なのも嫌だった。

 

かいちゃんの小学校は運動会の日でも給食があって、

恒例のメニューが『ぜんざい』であったことだけが

唯一のなぐさめだったと云えよう。


その138 「台風と あいやん」

家の前の坂をずんずん下っていくと

千里川という、幅4メートルほどの川があって

うっそうと木々に囲まれていたのが

突然開けて、川沿いに家が建った。

 

ひどい雨台風の翌朝、学校に行くと

「千里川が氾濫して ”あいやん” の家が水に浸かった」

と噂になっていた。

 

”あいやん” は勉強のできる男の子であったが

やたらに激しやすい性格で すぐにカッカと怒るので

『瞬間湯沸かし器』というあだ名が付いていた。

 

『水に浸かった』というのがどういう状態なのか、

ぜひ見てみたいと思っていたら

「危ないので絶対に行ってはいけません」と

先生に先手を打たれてしまった。

 

あいやんは3日ほど休んで学校に来たが

一階の畳を抱えて二階に避難したとか

トイレのスリッパがぷかぷか浮いていたとか

臨場感あふれる話で一躍クラスの人気者になった。

 

同情しながらも かいちゃんは

あいやんがぷりぷり怒りながら片づけている姿を

思い浮かべて くすっと笑った。



calendar

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< October 2017 >>

selected entries

categories

archives

profile

お問い合わせ

search this site.

others

mobile

qrcode

manage