その123 「映画会の白幕」

町内映画会のスクリーンは白い布のようなもので

スクリーンというより「白幕」であった。

 

空き地に立てた杭か電信柱に括りつけてあるので

ピンと張ったつもりでも風でゆらゆら揺れる。

 

上映していたのは洋画だったと思うが

風が吹くたびに アップになった役者の顔が

ぐにゃぐにゃ歪むのが面白かった。

 

映画が始まると人がいっぱいで暑いし

ゴザに座っているとお尻が痛くなったので

かいちゃんは白幕の裏側に行った。

 

少し鮮明度は落ちるが裏側にも映画は写っていて

かいちゃんはそこにあったブランコに腰を掛けた。

 

これは全く快適な特等席であったが

問題は翻訳された日本語のひらがなが

裏向けに見えることであった。


その122 「町内映画会」

お盆の頃だったと思うが、

集会所横の空き地で 映画会をする日があった。

 

いつも走り回って遊んでいる空き地に

白い大きな幕が張られる。

杭を特別に立てていたのか

電信柱を利用していたのかは定かでない。

 

幕の前の地面にはどこかから集められた

ゴザが敷きつめられる。

 

かいちゃんたち子供は なんとなくそわそわして

映画の始まるのを待っているのだが

「暗くならんと映らへんねんで。一回、帰り」と

町内会のおじさんに追い払われる。

 

夕飯を済まして、ずいぶん暗くなった頃

うちわと蚊取り線香を持って姉たちと出かける。

 

心待ちにしていた割に映画はたいして面白くなく

ゴザに座っているとお尻も足も痛くなって

ともだちを見つけてはそのへんを走り回っていた。


その121 「ムニエル」

鯖の切り身を蒸し器で蒸して

レモン汁とマヨネーズをかけたものを

母は『ムニエル』と呼んでいた。

 

小ぶりの鯖を三枚におろしてふたつに切る。

身の真ん中に細かい骨があるのを

大きな毛抜きで丁寧に1本ずつ抜く。

 

塩コショウをしてレモンの輪切りを乗せ

湯気の上がった蒸し器で蒸す。

 

冷めてから マヨネーズをレモン汁でのばしたものをかけて

上品に盛り付ける。

 

母にしては珍しく洋風な料理であった。

 

『ムニエル』というのは魚に塩コショウをして

小麦粉をまぶして焼くのだと知ったのは

ずいぶんたってからである。

 

”魚に塩コショウ” というところだけしか

合っていないではないか、と思ったが

今でも母の前ではこの料理を

『鯖のムニエル』と呼んでいる。


その120 「蒸し器」

母は蒸し器をよく使っていた。

 

細いさつま芋をしょっちゅう蒸していたし

じゃがいもも茹でずに蒸していた。

 

きのうの残りの冷やご飯も

蒸して温かくして昼ごはんに食べる。

 

蒸し器は黄色いアルマイトの円筒形で

深さがあって蓋も こんもり丸かった。

 

底から4センチほどのところに出っ張りがあって

ぷつぷつ穴のあいた円盤のようなものを

ここに嵌めこむようになっている。

 

円盤の下には水を入れておき

蓋の内側にはふきんを被せる。

 

ふきんの四すみは蓋の上にあげておくのだが

うっかり下に垂れるとガスの火で焦げる。

 

そのために蒸し器はタテに長いのだなと

かいちゃんは推測していた。


その119 「すいかの限界」

すいかをどこまで食べるかは重要な問題だった。

 

すいかの実は赤くて皮は緑色であり、

その間に実とも皮とも言えない白い部分がある。

 

三角形のすいかは とんがったとことろが甘くて

そこをかじると次に、種の密集している部分がある。

みんなはすいかを かぷかぷ食べて

種をぷっぷっと吐き出していたが、

かいちゃんはそれが嫌で

お箸の先っちょで種をほじくりだしていた。

 

種を取り出すのは面倒だが、このあたりはまだ甘い。

なおも かじかじと食べて行くと

だんだん甘みが薄くなって、色も白っぽくなってくる。

 

ここまでで食べるのをやめると

「まだ赤いとこが残ってるやん」と母のチェックが入る。

 

仕方なく もう少しかじるのだが、

『先に甘くないところから食べる手はないのか?』と

かいちゃんは すいかを食べる度に考えていた。


その118 「夕立ち」

夏の夕方には夕立が来る。

 

家から北の方角に箕面山が見えていて

山の上の空が墨を流したような色になると

夕立がやって来る。

 

かんかん照りのように見えても この雲を見つけたら

「洗濯物を入れてー」と叫ぶ。

 

お隣りとは庭続きだからもちろんのこと

お向かいや2軒先まで届くように

「夕立ち来るでー」と叫ぶのである。

 

黒雲の足は速くて

あっというまに あたりが薄暗くなって

大粒の雨がぺたっ ぺたっと音を立てて落ちてくる。

 

ざーっと降りだす頃には

灼けたアスファルトや土や草の匂いが

雨が落ちたところから立ちのぼってきて、

かいちゃんは網戸に貼りつくようにして

家の外に降る雨を見ていた。


その117 「すいか」

すいかは八百屋さんで売っていた。

 

店先に丸いまま ずらっと並んでいて

半分にしたものなどは置いてなかったから

家族が少ない家は人数に合わせて

小さなスイカを買っていたのかもしれない。

 

赤と白のビニールヒモを組んだネットを

すっぽりと被せると二本の持ち手の部分ができる。

 

ちっこくて力の無い かいちゃんには

絶対に持つことができない。

 

母が抱えて帰るか、

二人の姉が持ち手を片側ずつ持って 提げて帰った。

 

冷蔵庫には入りきらないから

桶に水を張って下半分を浸ける。

上半分にはタオルを被せておくと

水を吸ったタオルが上半分も冷やしてくれるらしい。

 

「毛細管現象である」と下の姉が物知り顔で言う。

 

そんなことはどうでもいいから早く冷えてほしい、と

じっとすいかを見る かいちゃんであった。



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