郵便配達員の長男・司と三男・学は毎日同じ町を巡っている。
次男の隼人だけは田園都市線で通勤し時々出張で外に出る。
近所に住んでいた松井くんはお母さんを残してドイツで結婚している。
美しい朝倉さんは坂の上に着く幼稚園バスにヒロシ君を迎えに来る。
朝倉さん家の家政婦の安藤さんは四角い顔をしていて
これはもう片桐はいりさん以外の誰でもないという感じ。
登場人物の距離が近づいたり離れたり。
ふわふわと床をただよう冬の家の中のほこりのように
やさしくて少しわずらわしい人のつながり。
JUGEMテーマ:読書感想文
悪夢のような記憶から逃れようとするのか
JUGEMテーマ:読書感想文
母親はジャパニーズのコンサートに行こうとしている。
娘は「ぷにょぷにょ」グッズを貰うためクドクナルドに行かねばならない。
しかし愛犬ピナ・バウシュが今夜にも出産しそうだから
JUGEMテーマ:読書感想文
トムの居なくなった家を葬儀社の男が訪れる。
出てきた母親は娘のローラはベッドで寝ていると言う。
帰りかけた男が忘れた帽子を取りに戻ると
女はローラだと名乗り、母親はベッドで寝ていると言う。
ローラはガラスの動物に砂を降り積もらせながら弟の帰りを待っている。
母親とローラ、二人の人格を交錯させながら、
ローラは三年前にヒソ入りのワインを母親に飲ませたと告白する。
男はトムが死んだこと、もう待つことはないと告げて消える。
JUGEMテーマ:読書感想文
のけものは「除け者」の意味なのか?
アポロ11号が月へ降りた日、
ボクサーのアポロ獣一はデビュー戦であばら骨を一本失う。
サーカス団には月の兎。月の兎は伝説の病を持っている。
人が獣にとりつく伝染病。人が犬にとりつけば伏。
人が象にとりつけば像。人の為と書いて偽。
月へ向かうアポロ11号に逆行して太古に遡る船には
JUGEMテーマ:読書感想文
常軌を逸した自罰的行動で職を失い、画家への道を歩み始める。
JUGEMテーマ:読書感想文
2010年頃から始まった沖縄の売春街の「浄化」運動。
著者は戦後をさかのぼると共に、この街で生きた人への取材を重ね、
「もうひとつの沖縄」の姿を浮き彫りにしてゆく。
脚本の中で1945年8月15日を「終戦」と書いたとき、
「終戦ではない。敗戦だ!」と言われたことがある。
上演後のアンケートだったから無責任な放言のように感じてしまったが、
しだいにその意味が分かってきた。
爆撃が終わっても憎しみや暴力はすぐに終わるものではないということ。
戦争は人間の尊厳を破壊してしまうということ。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
「妻と子供が四人」と答えたところからカンボジアの飢えた子供のこと、
パレスチナ難民援助協会の受付女性の結婚、アイバンクへの登録、
遺体の献体まで話はどんどん進んで行く。
男1人、女1人の会話劇。
仮定や質問が決定事項にすり替えられていくパターン。
ささやかな悪意を持った女性と、いつのまにか自分を見失う男性。
人はこんなふうに騙されていくんだな。
]]>そのままならずっと幸せにやっていけたはずなのに
ひとりの男の出現がわずかな歪みを大きくしてゆく。
人を殺めた過去を背負う誠実で清潔な男。
ささやかな秘密と嘘と真実と偶然の積み重ね。
故意か事故なのか10才の娘は障害の残るケガを負い、男は消える。
8年後にやってきた青年は男の息子だと言い、
無垢な真実は家族をどこまでも追い詰めてしまう。
誰でもが持っている人としての不条理。
悪意でもなく善意でもない嘘や真実。
歪みはじめた家は小石がはねたほどの衝撃で崩壊する。
]]>
気まぐれにイヴを付き人にして目をかけるマーゴだが
しだいにイヴは劇作家や演劇評論家に取り入り
マーゴを陥れて女優への階段を駆け上ってゆく。
マーゴ役のベティ・デイビスがすごい存在感。
画面に映ったただけで大女優の役だと分かるし
メイクしたときの美しさと、疲れた素顔のギャップが
映画全体のリアリティをガシッと支えている。
観おわってから「あれ?モノクロだったんだ⁉」と
自分の目が信じられないほど頭の中は総天然色であった。
]]>
BC級戦犯として収容されていた日本人と元日本人だった朝鮮人の物語。
誰が戦争を始めたのか。誰が人を殺させたのか。誰が同胞を殴ったのか。
在日韓国人の集まる焼肉ドラゴン。
戦争で片腕を失くした店主と後妻と親の違う三人姉妹、
店主と妻の間に生まれた息子は中学校でいじめられている。
万博を控えた整備事業で店は立ち退きを迫られ、
娘たちは愛に悩み、男たちは差別に怒り、哀しみが交錯する。
それぞれが声高にわめきながら生きて行く中、
言葉を失った中学生の息子は死を選ぶ。
最後のシーン、
亭主のひく リヤカーにどかっと座り込む妻の姿が
それでも生きてゆく人間の強さを感じさせてくれて感動!
]]>
屋敷に招き入れて毒入りのワインを勧め天国に旅立たせている。
同居する甥のテディは自分をルーズベルト大統領と信じ
地下室にパナマ運河を掘って死体を埋葬している。
叔母たちの秘密を知った甥モーティマーは
テディを施設に入れて犯罪を隠そうと奮闘するが、
脱獄した殺人犯の甥ジョナサンが突然屋敷にやってくる。
叔母たちと自分の殺した人数はどちらも12人。
対抗意識を燃やしたジョナサンはモーティマーを殺そうとする。
]]>男たちは祭りの神輿をかつぎに出払っている。
母親ヒロコ、姑タマエ、次女キョウコ
キョウコの男友達の娘マオ(11才)
前夜、東京から酔っぱらって帰ってきた長女ミドリ
さらに東京からキョウコの娘ユリア(20才)が帰ってくる。
こどもを産む、産まないという話題が軽妙に展開しながら、
家、世間、仕事、恋愛、時代、いろいろな問題が見え隠れする。
6人の女性のキャラクターと関係性がしっかりしていると
こんなにも戯曲は面白く書けるのか!
2008年岸田國士戯曲賞受賞作
JUGEMテーマ:読書感想文
JUGEMテーマ:読書感想文
すり替えられたびっくり箱カバンを抱えて旅に出る。
音楽を失くした夫はセイのことを忘れてしまったけれど
大切なものを取り戻すために旅に出る。
おしゃべりをしなくなった小鳥たち。
鳴くのを忘れた虫たち。
絶望の中でひとつずつ見つける希望は♪音符の形をしている。
びっくり箱はいっときの笑いを誘うけれど
人が生きてゆくためには哀しみや優しさが必要なのさ。
]]>
「洲崎パラダイス」に流れ着いた蔦枝と義治。
飲み屋のおかみは4年前に女と出て行った亭主を待ち続け、
蔦枝は義治を捨てて羽振りのいい電気店の社長の世話になり、
蕎麦屋の気立てのいい娘は義治に好意を持つ。
うまくいきそうな男と女はうまくいかず、
帰って来た飲み屋の亭主は別れた女に刺し殺される。
別れてしまった男と女はヨリを戻し
バスに乗ってまた新しい町に流れて行く。
モノクロだということを忘れてしまうほど色彩を感じさせる映像。
幸も不幸もあっけらかんと受け止めて生きる人たちが
テンポよく描かれている秀逸な映画。
]]>別れた夫婦、別れそうな夫婦。死んだ娘、やってきた孫娘。
世話好きで人のいい佐和子の歩んできた人生は
どこにでもあるような幸せと不幸に彩られている。
登場人物は8人だけなのにそぎ落とされた言葉の隙間から
それぞれの家族や亡くなった人の姿も見えるような。
革命家、宮崎滔天は桃中軒雲右衛門に弟子入りし、
桃中軒牛右衛門(うしえもん)と名乗る。
明治35年『三十三年の夢』を出版した滔天。
貧乏に耐えながら夫の活動を支える妻の槌。
孫文を助け辛亥革命を支援し革命の夢を追う滔天は
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
父親とは40年ぶりの再会だがなんだかぎこちない。
フラメンコを趣味にしている明るい母親。
JUGEMテーマ:読書感想文
最初の感染者はそろそろ最期を迎え、現在は女性1名と男性数名。
新しく移住してきた女性3名は、一年前からいた男性の妻と、
外国籍の居住者の姪と、結婚式を挙げたばかりの若い女性。
特殊な状況なのにふつうのような生活。
ふつうのような生活なのに着実に忍び寄る終末。
京都在住の土田さんの関西っぽいのノリが心地いい。
役者さんも全員魅力的で大いに気に入りました!
]]>
通りかかって手伝わされる男は会社を休み続けている。
仕掛けを考えた女の夫は実行することから逃げ、
男の妻は三日前に死んだ子どもを背負って女を手伝う。
少しずつ狂っていくバランスの中で、乞食は自ら罠に掛かる。
『病気』とよく似たシチュエーション。
まあ電信柱のある道端っていうのは別役さんの定石だけど。
登場人物全員が常識的で善良なのに少しずつズレていることが
関係性の変化になって話がじわじわ不条理に向かって転がっていく。
巻末の解説に「乞食はキリストだという説がある」と書いてあって、
ああそうなのか! と驚いた。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
赤ずきんちゃんはくすぐられてもくすぐったがらない。
パパとママにくすぐられたことがないからだ。
森は赤ずきんちゃんの夢の森。
手をつないで誰も消えないようにすれば
魔法使いの魔法で森はクリスマスになる。
なんのことだか分かったような分からないような……。
JUGEMテーマ:読書感想文
会社でも目立たないヨシダ君の部屋に突然、家族が現れる。
父、母、兄夫婦、甥と姪。さらには仲人と見合い相手。
見たことがないばかりか、母は男で小学生の姪は20才くらい。
困惑し、当然のことながらやがて怒り出すヨシダ君。
実はこの疑似家族はヨシダ君を戦場へ派遣するための
心優しいボランティアの人たちなのであった。
2000年に如月小春さんが亡くなって20年。
こういう戯曲を書いてらしたんだなあと、
あらためて早世されたことが惜しまれます。
JUGEMテーマ:読書感想文
「この世界のさらにいくつもの片隅に」
りんどうのお茶碗ひとつでテーマが変わった。
周作さんもお義父さんもお義母さんも りんさんのことを隠していた。
故郷に帰りたいすずさんは、りんさんと同じでどこへも逃げられない。
水原さんはすずさんを過去に連れて行ってくれる存在だけれど
周作さんを愛しておとなになったすずさんはもう子供には戻れない。
おとなであるすずさんは晴美さんの死に責任がある。
前作で夢見る少女だったすずさんは後悔を知る生身の女性になる。
ひとりの人間の中には綺麗なものも汚れたものも詰まっているのだと
優しく教えてくれる脚本になった。
]]>
バスケットにザボの好きなハムサンド、卵焼き、ワインを入れて。
ザボそっくりな敵の兵士ゼボも一緒になって奇妙なピクニックが始まる。
幼児期にスペイン内戦を体験したアラバールが
1952年、20歳のときに書いた不条理なコメディ。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
世間知らずの浅野内匠頭にいろいろ教えてやったのに
喜ぶどころかこともあろうに松の廊下で刃傷沙汰。
怪我をさせられたうえ世間の風評は判官びいき。
お家断絶の赤穂浪士から仇と狙われて
冬のさなかに炭小屋に隠れなければならないとは。
体制に従う者・おもねる者・反抗する者。
生類憐みの令の時代にイヌのように幕府に仕えて
あげくに仇討ちされちゃった上野介の最期の数時間。
JUGEMテーマ:読書感想文
そこへポッツオがラッキーの首にナワをつけてやって来る。
二人が去ったあと男の子が「ゴドーは今日は来ない」と言いに来る。
翌日またゴドーを待っていると盲目になったポッツオとラッキーが来る。
また男の子が「ゴドーは来ない」と言いに来て
ふたりは自殺しようとするが失敗して幕。
不条理演劇の傑作。不条理だからよく分からない。
ミニマルミュージックのように少しずつズレながら繰り返される毎日。
JUGEMテーマ:読書感想文
人と上手くつきあえない15歳のクリストファーが
近所の犬が殺されているところに出くわす。
ホームズのような探偵になって犯人をつきとめようと
日記のように手掛かりをノートに書くクリストファーは
犯人にたどり着くと共に死んだはずの母親の行方を知る。
2012年ロンドンで初演
2014年ブロードウェイミュージカル。
自閉症のクリストファーの考え方や感じ方で
世界を見ることができる奇跡的な傑作。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
崎陽軒の『シウマイ娘』のことを調べていたら見つけた。
米軍に接収されている横浜で生きる富裕層、娼婦、混血児。
時代と風俗と人間を描いた秀作。
人は必ずしも揺るぎない信念を持って生きている訳ではない。
これでいいと思いながら間違った方向に進んでしまっていたり、
優しさだと思っていることが自己中心だったりする。
それでも人は変われるし自分の道を選ぶことができる。
そんなお話である。
]]>ああ、こういう戯曲を読む力が無いことが哀しい……。
とにかく題名がカッコイイと思ったんだけれど、
JUGEMテーマ:読書感想文
新しい感覚の息子夫婦とフェミニストの女性弁護士。
60才にして自立を思い立つ主婦とふてくされる亭主。
カナダの小さな農村に劇場を建て、
分かりやすく面白いお芝居を書いたアン・チスレット。
トレーラーハウスの中で繰り広げられる軽快なコメディ。
JUGEMテーマ:読書感想文
JUGEMテーマ:読書感想文
空襲を生きのびた風吹景子は消息不明の弥生俊を待ち続ける。
年老いても少女のような景子をナイトのように守る男たち。
夜の百貨店でロミオとジュリエットの幕が上がる。
もうこの題名だけで「素晴らしいぞ、この脚本!」と震える。
宝塚歌劇を彷彿とさせる設定だけれど舞台は北陸の地方都市。
1982年のキャストは淡島千景さん、汀夏子さん、甲にしきさんなので
やっぱり宝塚なんですわ。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
入り組んだ血のつながりの中でまっすぐに生きる秋幸は
愛も優しさも畏れも、人としての感情を豊かに持って成長する。
『あの男』の息子であるという他人の目、父への憎悪と憧憬、
自分を殺しに来る義兄の記憶は反復され、
26歳の秋幸は腹違いの弟を殺す。
神の視点なのかカメラの視点なのか
句読点のない文章はトリックのように時間をずらし
埃っぽい町の俯瞰と人の心の奥底とを同時に描き出す。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
所長と職員らしき人々は、はたして本当に職員なのか?
四桁の番号で呼ばれる収容者たちは
ひとりの職員を残して所長と職員を殺してしまう。
生き残ったのは下級職員と収容者たち。
殺したのは本当に収容者なのか?
温室に入るといつも奇妙な気分になるのは
温度や湿度の匂いと、音がどこにも抜けて行かないせいだ。
この戯曲が「温室」と名付けられていることに納得する。
JUGEMテーマ:読書感想文
父の葬儀に参列するため二十年ぶりに帰って来た兄。
家業のスーパーマーケットを継いだ弟。
いとこ夫婦と近所の電気屋と葬儀屋と姿を見せない母親。
足元が揺れているような震災後の空気感。
その家の人にしか分からない家屋に染みついた匂いが
訪問者の顔をそむけさせるような戯曲。
JUGEMテーマ:読書感想文
ジェリーはエマを愛して、二人は七年間不倫を続けた後、別れる。
ややこしいのはこの戯曲が、
別れて二年後から始まって時を遡ってゆくことだ。
しかも途中で時間順になったり、それぞれが嘘をついたりするから、
プロットにすれば分かるけど、はたしてどんな舞台になるのだ?
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
JUGEMテーマ:読書感想文
オーシーノ侯爵は伯爵令嬢オリヴィアに求婚しているが
オリヴィアは男に化けたヴァイオラに一目惚れ。
ヴァイオラはオーシーノ侯爵を愛しているけれど
侯爵はヴァイオラを男だと思っていて……。
シェイクスピアお得意の恋のドタバタから騒ぎ。
少女マンガのラブコメものって
シェイクスピアが400年以上前に書いたのと同じなのね。
JUGEMテーマ:読書感想文
その娘フリーデリンドはマウジ(ハツカネズミ)という愛称で呼ばれる。
ヒトラーと親交のあったワーグナー家はナチスの協力者として裁かれる。
ナチスを嫌ったマウジはトスカニーニを頼って国を出る。
ワーグナー家女ヴィニフレッドはワーグナーの音楽を守るために生きる。
戦争、ナチス、ユダヤ人、虐殺、芸術、人間、母と娘。
重すぎる歴史の上にワーグナーの音楽が流れる。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
原作がもちろん面白くて、テレビアニメも面白くて、
実写版も面白いなんて奇跡と言えるかもしれない。
ペコとスマイルと孔と風間とアクマ、
オババとコーチと脇役の卓球部員。
ヒーローになりたい者やらなりたくない者やら。
2時間でまとめたクドカンは流石である。
JUGEMテーマ:読書感想文
渋沢敬三の主宰するアチック・ミュージアムに入所する。
軍国主義は学問や夢を砕き、研究員たちは道を選び、
渋沢は日本経済を支えるために日銀総裁となる。
宮本はどんな状況でも自分の足で山村を回り
歴史の脚光を浴びない人々の生活を書き留めてゆく。
坂本長利さん演じる「土佐源氏」
その元になった「忘れられた日本人」の著者、宮本常一を描いた戯曲。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
コンダクターを振り回すクセ者のミュージシャンたち。
妻のバイオリニストはトランペッターと不倫。
ギタリストはハーピストと結婚するつもり。
でもハーピストはトランぺッターとつき合っている。
ドラムは詐欺まがいの洗剤販売で生活費を稼ごうとし、
サックスは幕間に競馬をやっている。
コンダクターは無事に全員の音色をまとめることができるのか?
あり得ないけど有りそうな舞台裏の人間関係。
本音と建て前の会話を積み上げながら、みんながいつのまにか前に進んでいる。
上手いなあ、好きだなあ、こういうの。
]]>
美しく残酷な姫のためにバケモノのようなミロクを刻む耳男。
青空のように恐ろしい姫は耳男に無邪気な笑顔を向けるが
姫がいれば人は生きていけないと知った耳男は姫の胸をノミで刺す。
「さよならの挨拶をして、それから殺してくださるものよ」
姫はニッコリ笑って言う。
「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ」
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
幼少の頃、里子に出された漱石は9才で実家に戻るが、
長じたあと養父からの金の無心は死ぬまで続いたという。
養母の娘と兄嫁への思いは騎士ランスロットの
アーサー王とギニヴィアとシャロットの女との関係に重なる。
「夢、ハムレットの」
焼跡の芝居小屋に復員兵が帰って来る。
空襲で夫を亡くした母親は叔父の妻になっていて、
折しも芝居小屋ではハムレットの稽古が始まっている。
福田善之さんの戯曲って好きだ。
物語と現実が二重写しになるのは、
地球上の水がぐるぐると空と海を巡っているからだ。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
気まぐれな狩猟者に撃ち殺される。
女優を夢見るニーナは高名な作家に憧れ、
作家は有名な女優の恋人で、女優の息子トレープレフはニーナを愛している。
幸福を失ったニーナはそれでも女優であることを選び、
成功を手にしたトレープレフはピストル自殺をする。
ニーナが演じる劇中劇のトレープレフの戯曲のせいで
難解な演劇かとダマされそうになるのだが
それぞれの価値観で生きる人たちの関係性の歪みが
誰かの幸福と不幸を生み出すという、いたってシンプルで美しい戯曲。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
乞食の元締めを父親に持つ娘ポリイは悪党の親玉マックヒースと結婚する。
マックヒースは警視総監ブラウンの妹ルシイとも結婚しているし、
娼婦のジェニーともねんごろである。
殺人・窃盗・詐欺なんでも来いのマックヒースは警察に追われているが、
ブラウンと通じているので簡単には捕まらない。
1728年ジョン・ゲイ作の「乞食オペラ」を元に
愛と裏切り、嘘と真実、歌と不道徳をぶち込んだ
1928年にブレヒトが書いた名作戯曲。
「人生はこんなにも厳しい、悪事には寛容であれ!」
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
口うるさい親父の頭を叩き割って逃げて来たと言う。
それを聴いた娘や村人たちは皆、たいした奴だと若者を祭り上げてしまう。
彼こそ「西の国の人気者」である。
ところが死んだはずの親父が現れ、がっかりする村人たち。
もう一度親父の頭を叩き割った若者は今度は警察に突き出されかける。
しかしまたまた生き返った親父。
若者は娘と別れて父親と共に故郷に帰って行く。
演劇の主人公が王侯貴族ではなく一般庶民になった、
そういう時代の戯曲。
コメディはコメディだけれどブラックユーモアというか、
「一撃で親父の頭を叩き割るなんて全くたいしたもんだ!」
と人気者になってしまうとは、なんという展開…。
JUGEMテーマ:読書感想文
四国の旧制中学校で粛々と人の輪を尊び仕事をこなしている。
そこに東京からやって来たのは親譲りの無鉄砲の坊ちゃん。
乱暴者の山嵐、自分勝手なマドンナ、優柔不断なウラナリ、
主人の言うことを聞かない女中のウシに振り回されている赤シャツは
更なる災難と窮地に追い込まれる。
視点を変えただけでヒーローは悪者に、奸物は善人になる。
夏目漱石作「坊ちゃん」を見事に裏返した名作戯曲。
人はだれでも愛すべき美点と欠点を持っている。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
長崎に雪が積もったらマリアの首を盗み出す約束。
信徒であり、看護婦であり、娼婦である鹿の希望と絶望は、
彼女の耳から首へのケロイドのように見え隠れする。
終戦の瞬間に戦後が始まった訳ではない。
原爆の後遺症のようにあとから蝕まれてゆく体と心。
苦しみはひきずられて地面に意味のない文字を描く。
傷を負ったことのない私にその痛みは分からない。
]]>国のために死ぬこと、朱雀家の断絶、国の滅亡をさえ受け入れる侯爵。
国家、天皇、人の在り方の美学を侯爵は毅然と語り、
対をなす人としての思いを事実上の妻である おれいが激しい言葉で語る。
あなたこそが滅ぶべきだと断罪する花嫁・瑠津子に侯爵は言う。
「どうして私が滅びることができる。夙うのむかしに滅んでいる私が」
登場人物のそれぞれが語る価値観が全く違うにも関わらず、
誰ひとり間違ったことを言っていないという不思議さ。
美学という言葉が死語ではなかった頃の戯曲である。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
母との対立、妹への嫉妬、情愛、策謀、悲哀の中で
無垢と怪物性を持つ夫と自分を重ね合わせて行く。
ついにサド侯爵が牢を出る時、ルネは別れを決意する。
六人の女性の対立から浮かび上がるサド侯爵の肖像。
まるで編み物のように一本の糸から作られたタペストリーのようだ。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
淋しいというのがどういうことか、誰も本当のところを知らない。
ようやくたどり着いた海にはおさかなはもういなくなっていて
ぽろぽろと涙をこぼす女の子に海は言う。
「淋しいというのはそういうことなのさ」
別役さんの童話はいつも優しい。
優しさは悲しさの忘れ形見だ。
淋しさを知った女の子は無敵の優しさを手に入れる。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>
大坂の陣で豊臣のもとに集まる。
真田幸村と世にいう十勇士、猿飛佐助、霧隠才蔵、などなど。
んぱ んぱ んぱ ずんぱぱッ と鬨の声をあげて
冬の陣、夏の陣へと突き進んでゆくのだ。
「おじさんおとなだろ。おとなは責任あるよ」
「どうして好きになれるよ。え? 心の中を見すかしてしまうようなやつを」
かんたんな言葉で演劇は真実を言いあてる。
どんな時代に書かれたものでも、どんな時代を描こうとも
ただしい戯曲はいつも新しい。
JUGEMテーマ:読書感想文
その数52篇と自作品28篇。
これはもう戯曲の台詞の宝石箱と言うしかない。
別役さんの戯曲はひとつひとつの言葉が色とりどりの小石のようで
白いお皿の上にザラッとぶちまけたように見えるのだけれど、
実際は目に見えないほどの細い糸で順番につながっていて
ひとつをつまみあげると全部が必然的に並べられていることが分かるのだ。
JUGEMテーマ:読書感想文
ガリレイは人類の敵だと糾弾される。
美食家のガリレイは富と命のために科学を裏切る。
それでもガリレイは地球が動いていることを知っている。
チャールズ・ロートンの協力による「ガリレイの生涯」英語版。
神と科学は本来、対立するものではない。
新しい時代が開けることにより既得権を失う権力者が
真理を否定しようとする。
闘争、葛藤、焦燥、嘆き。ブレヒトはそんな台詞は書かない。
淡々と物事が進んで行く中に人の思いは沈んでいる。
]]>
バレエ「赤い靴」の主演で成功を収めた新人バレリーナが
ひたすら踊り続けた果てに悲劇を迎える物語。
ログラインは原作と全く同じと言っていいほどなのに
ストーリー、キャラクターのふくらませ方が絶妙で、
シンプルな童話の脚色でここまで素晴らしい映画ができるのかと
あっけにとられてしまった。
JUGEMテーマ:読書感想文
ハムレットの登場人物は出てくるのだけれど
散弾銃のように打ち出される言葉と思想とアイロニーの隙間を
突撃しているのだか逃走しているのだか分からない。
舞台をみれば理解できるのかもしれないけど私の力不足です。
JUGEMテーマ:読書感想文
]]>