その193 「往診」

緑内障で視力を無くしていた祖父が病気になった時は

お医者さんが往診に来てくれた。

 

お医者さんは大きな黒い鞄を持って

すぐ近所なのに車に乗ってやって来る。

 

白衣を着て玄関を入ってくると

ぷんと消毒薬の匂いがしたように思うが

母に「あっちへ行っとき」と追い払われるので

それ以上のことは憶えていない。

 

「あとから薬を取りに来てください」と言われて

薬を取りに行くのは かいちゃんの仕事だった。

 

祖父は別に体が弱かったわけではないので

一度か二度のことだったと思う。

 

祖父は家で亡くなったが、いよいよ危ないという時に

下の姉と一緒にお医者さんを呼びに行った。

 

それほど遅くない夜のことだったと思うが

現実感が無くて、「暗い道は怖いなあ」と

的外れなことを考えながら道を急いだ。

 

身近な人を亡くしたのは初めてだったのに

その前後の記憶は飛んでいて

お葬式の用意に近所の人が集まって

おにぎりを握っている映像と音声を

映画のようにはっきりと憶えている。



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