その133 「つるべ落とし」

『秋の日は 釣瓶(つるべ)落とし』と母はよく言った。

 

「あっという間に暗くなるから早く帰ってくるんやで」

という言葉があとに続く。

 

どうして秋の太陽は早く沈むのか、説明を求めたが

「昔からそうなんや」としか答えてくれなかった。

 

確かに暗くなるのが早くなって

いつまでも遊んでいられた八月とは違う。

 

夕方になるとどこかのお寺の鐘が

ごーんとかすかに響いてきた。

 

暗くなるのがちょうどその頃だったからだろう。

『つるべ』というのはお寺の鐘のことだと

かいちゃんは思い込んでしまった。

 

だいだい色の大きな夕陽が沈むのと

お寺の釣り鐘がどーんと落ちるイメージは

まったくぴったりである。

 

ずいぶんしてから『釣瓶(つるべ)』というのは

井戸で水を汲むあの『つるべ』のことだと知ったが、

「釣り鐘が落ちるほうが合っているのに」と

かいちゃんは残念に思った。



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