その69 「テングサ」
浜には貝がらや木切れに混じって
海藻もいろいろ打ち上げられていた。
かいちゃんが浮き輪でちゃぷちゃぷ漂っていると
祖母が浜辺で赤茶色の海藻を拾っていた。
赤茶色と言ってもべろべろしたのやら
くしゃくしゃしたのやら 微妙に違っていて、
祖母が集めているのは細かく ちりちりした
『テングサ』という海藻であった。
探して持って行くと たいてい
「これは違う」「これも違う」と言われるので
かいちゃんは 波打ち際でちゃぷちゃぷするほうに戻った。
翌日、祖母が美味しいトコロテンを作ってくれて
「これがあのテングサだ」と聞いた時には驚いた。
あんな赤茶色のものが透明なトコロテンの素だとは!
それ以来、浜辺に行くとテングサを探したが
やはり「これは違う」と言われ続けた。