その68 「ツメタガイ」
祖父の家の前の浜は海水浴場でもなんでもなく、
小石や貝がらがコロコロ転がっている狭い砂浜だった。
かいちゃんは毎年、貝がらを熱心に拾った。
夏休みの宿題にするのである。
お菓子の箱に脱脂綿を敷いて貝がらを並べ、
百科事典で調べた名前を紙に書いて横に貼る。
これで貝がら標本の出来上がりである。
名前を調べるのがちょっと面倒だが、
浜に打ち上げられている貝がらは
ほとんどが『ツメタガイ』という貝であった。
『ツメタガイ』は名前の通り冷たい貝がらである。
12個ほどの標本の半分は ツメタガイで
あとは『いそもん(ニナ貝)』とか桜貝だった。
全く手抜きな標本であるが、小学校高学年になって
それすら面倒になった かいちゃんは
外箱と名前の紙だけを取り換えて提出していた。