その61 「ハイラズ」
台所にはいつも”ふかし芋”が置いてあった。
ちょっと小腹がすいたときに食べる用で、
細くて小さい芋をふかして塩をふってあった。
ふきんが掛けてあることもあったが、
傘のように開いてかぶせる網のようなものもあった。
母は蠅帳(はいちょう)と呼んでいた。
隣の家の赤ちゃんが昼寝をするときにも
これの大きなのが被せてあり、
「ふかし芋も赤ちゃんも一緒だな」と
かいちゃんは思った。
祖父母の部屋には網戸の付いた箱があって、
これもちょっと食べ物を入れておくものだったが、
蠅入らず(ハエイラズ)が縮んで『ハイラズ』と呼ばれていた。
食べ物を入れるのに ”入らず”とは妙な名前だと
かいちゃんは少し不思議だった。