その96 「仁丹」

おじいちゃんは仁丹の匂いがしていた。

 

うちの祖父だけでなく 高齢の男の人に近づくと

たいてい仁丹の匂いが ぷんと漂ってきた。

 

小さな透明のガラスびんに入っていたような気もするが

小さなマッチ箱のようなものだったかもしれない。

 

仁丹の匂いはさわやかで すーっとするのだが

口に入れると舌がしびれたようになって

噛み砕こうものなら苦くて はあはあする。

 

粒は小さく丸い銀色で 薬のように水で飲むわけでもなく

お菓子なのか薬なのか判らない。

 

祖父は容器から手のひらに振り出して

一日に何度か 口に放り込んでいたが

緑内障のため ほとんど目が見えないので

落としてしまうと かいちゃんを呼んで探させる。

 

拾ってあげると「食べ」と言う。

 

噛むと苦いが 味はけっこう好きだったので

ちょっと口の中で転がして ごくんと飲み込むことにしていた。



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