その202「冷ややっこと醤油」
朝食は「朝ごはん」、夕食は「晩ごはん」と言い、
昼食は単に「お昼」と言っていた。
冷ややっこはお昼によく食べたように思う。
夕飯のときはネギと削り節としょうがが乗せられ
小鉢にちょこんと入ってお膳の脇に控えていたが
お昼には主菜として でかい顔をしていた。
かいちゃんはネギが嫌いだったし
お豆腐には何も乗せずにお醤油だけかけるのが好きだった。
母が買ってくるのはいつも木綿豆腐で
「木綿のほうが栄養があるねん」と言っていたが
同じ値段で 木綿は絹こしの倍の大きさだったから
そのせいではないかと かいちゃんは推測していた。
豆腐はまずスプーンの背でよくつぶす。
そのあと醤油をかけてぐちゃぐちゃと混ぜるのだが
醤油をどれくらいかけるかが難しい。
どれくらいかければいい?と母に訊ねると
「そんなん適当や」と答えるのだが
適当という量が分からないから訊いているのである。
ちょびっとずつ醤油をかけて味を調整していると
遊んでいるように見えるのか
「そんなふうに つぶして食べたらお行儀が悪い」と
今さらなことを言う。
冷ややっこをつぶそうがつぶすまいが
適当な醤油の量というのが難しいのだ、と
かいちゃんは聞こえないふりをした。