その154「スチール本棚」

学習百科大事典の付属品だったのか

別に買ったのかは分からないが

スチール製の本棚があった。

 

クリーム色の幅40センチほどのもので

厚さ2センチほどの台の部分は空洞になっていて

手前と奥の面に穴が5センチごとに穿たれている。

 

Mのような形をした銀色の金属の棒があって

両端を前後の穴に差し込むと

好きな場所で固定することができる。

 

それまでの机や本箱は木製のものだったので

金属製の本棚は未来的に見えた。

 

学習百科大事典は1冊ずつ届くので

それに合わせて金属棒の位置をずらした。

そうしないと本が倒れてしまうからである。

 

簡単に付け替えられるとは言っても

非力な かいちゃんには大変な作業だったが

自分の物なので姉に頼みたくはなかった。

 

手のひらで握ったときの金属の冷たさと

M字をぐっと たわませるときの固さを

今でも想い出すことができる。


その153「学習百科大事典」

押し葉の”重し” に使っていたのは

『少年少女学習百科大事典』だった。

 

本屋やデパートで買ったのではなく

訪問販売のようなもので勧められた母が

「いいものを買ってあげたよ」と

突然 かいちゃんに告げた。

 

子供用といえど20巻以上あったし

1巻ずつ紙のケースに入っていたから

けっこう高価なものだったのだろう。

 

頒布会方式だったのか

毎月1冊ずつ送られてきた記憶がある。

 

事典といっても挿絵がいっぱい入っていて

読み物としても面白い。

 

なぜかばらばらな順番で送られてくるのだが

『索引』という巻もあって、それを見て

「次は何巻がくるのだ?」と楽しみだった。

 

白い表紙の真ん中に黒い帯が横一文字に通っていて

背表紙の黒い部分に巻数が書いてあり

上半分には『学習百科大事典』

下半分にはその巻の内容が書いてある。

 

1巻ずつ増えて本立ての隙間が埋まっていくのを

待ち遠しい思いで眺めていた。


その152 「押し葉」

秋になると緑色のイチョウは黄色に変わる。

 

イチョウ以外にも赤や黄色が混ざったような

不思議な色の葉っぱがあちこちに落ちている。

 

穴があいたりしていないのを選んで持って帰ると

下の姉がめずらしく”押し葉”の作り方を教えてくれた。

 

新聞紙を母に貰って

葉っぱの端っこが折れないように慎重にあいだに挟む。

 

百科事典を一冊 横にして、その上にそれを置き

百科事典を数冊 上に乗せる。

一週間そのままにしておくと押し葉ができあがる。

 

百科事典の重みでぺちゃんこになった葉っぱは

ぺらぺらとした作り物のようになって

上品な感じがした。

 

簡単と言えば簡単なのだが

かいちゃんは一週間が待ちきれなくて

早く取り出してへろへろにしてしまい

姉に『それ見たことか』という顔をされた。


その151 「ススキとキリン草」

秋になると いたるところに

ススキとキリン草が生い茂った。

 

夏の草も 歩くのが邪魔なほど伸びるが

ススキとキリン草はそれどころではなく

かいちゃんの背丈をはるかに追い越す。

 

ススキは金色の穂がきれいなので

近くに寄って見上げるのが好きだった。

 

触っていないつもりなのに

手のひらや膝小僧に いつのまにか切り傷ができていて

お風呂に入るとしみるのが困りものだった。

 

キリン草は背がうんと高くて 頭が黄色い三角で

宝塚ファミリーランドで見たキリンそっくりだった。

 

ススキもキリン草も下から見上げているので

秋の高い空や うろこ雲や 夕焼けが背景になって

凛として見えた。

 

物知り顔の姉がキリン草のことを

「セイタカアワダチソウというのが正しい」 と言ったが

『そんな長い名前は似合っていない』と

かいちゃんは思った。


その150 「まつぼっくり」

幼稚園で習ったのだと思うが

『まつぼっくり』という歌があった。

 

まつぼっくりは松の木に成るものだと知ってはいたが

松の木は背が高いので

ちっちゃい かいちゃんにはよく見えなかった。

 

そのへんにころころ転がっているまつぼっくりは

茶色でがさがさしている。

 

『まつぼっくりがあったとさ。

 高いお山にあったとさ。  

 おさるがひろって食べたとさ』と歌詞にあるが

あんな木のかけらのようなものを

おさるは本当に食べるのだろうかと

かいちゃんは不思議でならなかった。

 

下の姉に訊くと「中の実を食べるのだ」と

不親切な教え方をしてくれたので

「食べるところなんてあるのだろうか?」と

いつまでも気がかりだった。


その149 「どんぐり」

神社にはどんぐりや きれいな色の葉っぱが

たくさん落ちていた。

 

大きなどんぐりをひろって持って帰ると

下の姉が爪楊枝を使って

器用に独楽(コマ)を作ってくれた。

 

そういう時、姉は必ずと言っていいほど

作るところを かいちゃんに見せない。

 

作り方を訊いても絶対に教えてくれないし

親切なのか意地悪なのか さっぱり分からない。

 

「作って」と頼んでも作ってくれるわけではなく

気の向いたときに ふいに呉れたりするのである。

 

上の姉は明るくて社交的で

かいちゃんは末っ子で自由きままだった。

 

あいだに挟まれていた下の姉は

少し窮屈な思いをしていたのかもしれない と

どんぐりを見ると思うのである。


その148 「千度参り」

クラス全員でお百度参りをしたせいかどうか

なっちゃんの足の手術は成功した。

 

退院して学校に戻って来た時には

なっちゃんもみんなも感動の再会であったが

ひと月もすると さっぱり忘れてしまった。

 

なっちゃんは目立つ子ではなかったし

体育などは見学していたのかもしれないが

それすら かいちゃんの記憶にはない。

何年生のときのことだったかも忘れている。

 

お百度参りを考えついた子だと思うが

「願いが叶ったら千度参りをするらしい」

と言いだしたが

みんなはもうすっかり興味を失っていた。

 

かいちゃんにいたっては

「百度もお願いしなければならないとは

神社の神様は けっこうケチである」と

あらぬ言いがかりをつける始末であった。



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