「贋作 桜の森の満開の下」 野田秀樹

耳男は夜長姫の十六の正月までにミロクの像を彫る。

美しく残酷な姫のためにバケモノのようなミロクを刻む耳男。

青空のように恐ろしい姫は耳男に無邪気な笑顔を向けるが

姫がいれば人は生きていけないと知った耳男は姫の胸をノミで刺す。

「さよならの挨拶をして、それから殺してくださるものよ」

姫はニッコリ笑って言う。

「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ」

 

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「漱石の恋」「夢、ハムレットの」 福田善之

「漱石の恋」

幼少の頃、里子に出された漱石は9才で実家に戻るが、

長じたあと養父からの金の無心は死ぬまで続いたという。

養母の娘と兄嫁への思いは騎士ランスロットの

アーサー王とギニヴィアとシャロットの女との関係に重なる。

 

「夢、ハムレットの」

焼跡の芝居小屋に復員兵が帰って来る。

空襲で夫を亡くした母親は叔父の妻になっていて、

折しも芝居小屋ではハムレットの稽古が始まっている。

 

福田善之さんの戯曲って好きだ。

物語と現実が二重写しになるのは、

地球上の水がぐるぐると空と海を巡っているからだ。

 

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「かもめ」 アントン・チエーホフ

空を飛ぶのが好きで、湖に浮かぶのが好きな かもめは

気まぐれな狩猟者に撃ち殺される。

女優を夢見るニーナは高名な作家に憧れ、

作家は有名な女優の恋人で、女優の息子トレープレフはニーナを愛している。

幸福を失ったニーナはそれでも女優であることを選び、

成功を手にしたトレープレフはピストル自殺をする。

 

ニーナが演じる劇中劇のトレープレフの戯曲のせいで

難解な演劇かとダマされそうになるのだが

それぞれの価値観で生きる人たちの関係性の歪みが

誰かの幸福と不幸を生み出すという、いたってシンプルで美しい戯曲。

 

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「三文オペラ」 ブレヒト

これは盗賊と娼婦と乞食のミュージカル。

乞食の元締めを父親に持つ娘ポリイは悪党の親玉マックヒースと結婚する。

マックヒースは警視総監ブラウンの妹ルシイとも結婚しているし、

娼婦のジェニーともねんごろである。

殺人・窃盗・詐欺なんでも来いのマックヒースは警察に追われているが、

ブラウンと通じているので簡単には捕まらない。

 

1728年ジョン・ゲイ作の「乞食オペラ」を元に

愛と裏切り、嘘と真実、歌と不道徳をぶち込んだ

1928年にブレヒトが書いた名作戯曲。

「人生はこんなにも厳しい、悪事には寛容であれ!」

 

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「西の国の人気者」 J.M.シング

若い娘が留守番をしている居酒屋に薄汚い若者が転がり込んでくる。

口うるさい親父の頭を叩き割って逃げて来たと言う。

それを聴いた娘や村人たちは皆、たいした奴だと若者を祭り上げてしまう。

彼こそ「西の国の人気者」である。

ところが死んだはずの親父が現れ、がっかりする村人たち。

もう一度親父の頭を叩き割った若者は今度は警察に突き出されかける。

しかしまたまた生き返った親父。

若者は娘と別れて父親と共に故郷に帰って行く。

 

演劇の主人公が王侯貴族ではなく一般庶民になった、

そういう時代の戯曲。

コメディはコメディだけれどブラックユーモアというか、

「一撃で親父の頭を叩き割るなんて全くたいしたもんだ!」

と人気者になってしまうとは、なんという展開…。

 

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「赤シャツ」 マキノノゾミ

教頭のあだ名は赤シャツである。

四国の旧制中学校で粛々と人の輪を尊び仕事をこなしている。

そこに東京からやって来たのは親譲りの無鉄砲の坊ちゃん。

乱暴者の山嵐、自分勝手なマドンナ、優柔不断なウラナリ、

主人の言うことを聞かない女中のウシに振り回されている赤シャツは

更なる災難と窮地に追い込まれる。

 

視点を変えただけでヒーローは悪者に、奸物は善人になる。

夏目漱石作「坊ちゃん」を見事に裏返した名作戯曲。

人はだれでも愛すべき美点と欠点を持っている。

 

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「マリアの首」 田中千禾夫

原爆で崩れ落ちた天主堂と焼けただれたマリア像。

長崎に雪が積もったらマリアの首を盗み出す約束。

信徒であり、看護婦であり、娼婦である鹿の希望と絶望は、

彼女の耳から首へのケロイドのように見え隠れする。

 

終戦の瞬間に戦後が始まった訳ではない。

原爆の後遺症のようにあとから蝕まれてゆく体と心。

苦しみはひきずられて地面に意味のない文字を描く。

傷を負ったことのない私にその痛みは分からない。



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