その135 「台風とトランプ」

台風で停電になった夜に

姉たちとトランプをした記憶がある。

 

かいちゃんが小学校三年生の頃には

上の姉はもうお勤めをしていたので、

姉妹が三人揃ってトランプをしたのは

それ以前のことだったと思う。

 

その頃にはまだ家にお風呂がなくて

夕飯を食べ終わっても停電が続いていて

することもないのでトランプを始めたのであった。

 

かいちゃんはまだルールがよく分からなくて

ババ抜きと神経衰弱くらいしかできない。

 

ポーカーと”しちならべ”も知ってはいるが

こういうのは下の姉が強くて

しかも情け容赦なく勝とうとするので

かいちゃんは あまりやりたくない。

 

遊んでいるうちに電気が復旧したのか

眠くなって寝てしまったのかは憶えていないが、

雨戸がこわれそうに がたがた言う中で

ろうそくのちらちらする灯りに照らされた

白いカードの模様を憶えている気がする。


その135 「台風とトランプ」

台風で停電になった夜に

姉たちとトランプをした記憶がある。

 

かいちゃんが小学校三年生の頃には

上の姉はもうお勤めをしていたので、

姉妹が三人揃ってトランプをしたのは

それ以前のことだったと思う。

 

その頃にはまだ家にお風呂がなくて

夕飯を食べ終わっても停電が続いていて

することもないのでトランプを始めたのであった。

 

かいちゃんはまだルールがよく分からなくて

ババ抜きと神経衰弱くらいしかできない。

 

ポーカーと”しちならべ”も知ってはいるが

こういうのは下の姉が強くて

しかも情け容赦なく勝とうとするので

かいちゃんは あまりやりたくない。

 

遊んでいるうちに電気が復旧したのか

眠くなって寝てしまったのかは憶えていないが、

雨戸がこわれそうに がたがた言う中で

ろうそくのちらちらする灯りに照らされた

白いカードの模様を憶えている気がする。


その134 「台風とろうそく」

秋になると台風がやってきて

台風が来ると停電になった。

 

停電になるのは分かり切ったことだし

お風呂も炊飯器もほとんどがガスだから

不便なのは灯りくらいのものである。

 

ろうそくに火をつけて

お皿の上に ”ろう” をぽたぽたと垂らし、

ろうが熱いあいだにろうそくを立てる。

 

ろうそくの灯りはゆらゆらと揺れるので

人が動くと部屋中が伸びたり縮んだりして

いつもとすっかり違って見える。

 

お風呂に入るときは湯船のふたを半分閉めて

その上にろうそくのお皿を乗せる。

お湯がかかるといけないので

髪の毛も体も洗わないことにする。

 

それなら何のためにお風呂に入るのかというと

湯船から立ち上る湯気のせいで

霧の中で入浴しているような気分を

味わうために他ならない。


その133 「つるべ落とし」

『秋の日は 釣瓶(つるべ)落とし』と母はよく言った。

 

「あっという間に暗くなるから早く帰ってくるんやで」

という言葉があとに続く。

 

どうして秋の太陽は早く沈むのか、説明を求めたが

「昔からそうなんや」としか答えてくれなかった。

 

確かに暗くなるのが早くなって

いつまでも遊んでいられた八月とは違う。

 

夕方になるとどこかのお寺の鐘が

ごーんとかすかに響いてきた。

 

暗くなるのがちょうどその頃だったからだろう。

『つるべ』というのはお寺の鐘のことだと

かいちゃんは思い込んでしまった。

 

だいだい色の大きな夕陽が沈むのと

お寺の釣り鐘がどーんと落ちるイメージは

まったくぴったりである。

 

ずいぶんしてから『釣瓶(つるべ)』というのは

井戸で水を汲むあの『つるべ』のことだと知ったが、

「釣り鐘が落ちるほうが合っているのに」と

かいちゃんは残念に思った。


その132 「こおろぎ」

虫が好きだったわけではないが

こおろぎは飼った覚えがある。

 

学研の「科学」という雑誌をとっていたから

付録に飼育箱が付いていたのだと思う。

プラスチックの四角い透明な箱で、

蓋は緑色で空気が通るようにしましまだった。

 

土を3センチくらい入れて こおろぎを入れる。

なすとかきゅうりとか、すいかの皮が食事である。

 

「じかに土に付くとカビたり腐ったりする」 と姉が言うので、

爪楊枝に刺して土から浮くようにした。

 

すぐに干からびるので結構こまめに替えていたが

新しいものを入れると嬉しそうに食べてくれるので

面倒くさがりやの かいちゃんにしては頑張った。

 

あるとき一匹がころころに太ってきたと思ったら

お尻の先を土の中に入れて、なにやらうごうごしていた。

 

そのうちに小さいこおろぎらしきものが

わらわらと飼育箱の中に出現した。

 

こどもが産まれたのだな、と少し感動していると

あっという間に親が食べてしまった。

 

ちゃんと食事をやっているのに

なんとひどいことをするのだと、

かいちゃんは土ごと こおろぎを草むらに捨てた。


その131 「種と実」

かいちゃんは種が好きであった。

 

おしろい花はどこにでもあって

グリコのおまけのトランペットのような花を付ける。

色はほとんど赤だが、白いのもある。

 

花が終わったあと緑のガクの上に

いつのまにか黒い丸い種が乗っかっている。

表面は梅干しの種のようにしわしわしていて、

石で叩きつぶすと白い粉が出てくる。

 

椿の木は幼稚園の生垣に1本だけ植わっていて

赤っぽい丸い実をつける。

実が割れるとつやつやした茶褐色の種が出てきて

これは非常に貴重なものであった。

 

椿の種からは油が採れると聞いたので

集めようとしたがめったに手に入らなかった。

 

大好きだったのは鳳仙花(ほうせんか)だが、

これは種はどうでも良くて

サヤがくるりんとはじけるのが面白かった。

 

種を収集しながら疑問に思っていたのは

どんぐりや、しいの実は ”実” といい

朝顔やおしろい花は ”種” という

どこにその違いがあるのかということだった。


その130 「朝顔のタネ」

朝顔は順番に咲いてゆくので種も順にできる。

細々と名残りの花が咲いているときに

既にうす茶色のまん丸な種ができている。

 

完熟して乾燥したものは 触るとかさかさして

簡単にぽろりと取れて皮もがしゃがしゃと剥ける。

 

丸い皮の中は三つの部屋に分かれていて

それぞれに黒い種がふたつずつ入っている。

種の形はリンゴを切ったときのような櫛型である。

 

完璧な種は6個全部がしっかり大きくて

こういうのは『当たり!』である。

たいていは1個か2個、しなびたのやら

黒くなりきれなくて茶色っぽいのが混じっている。

 

完熟していなかったり乾ききっていないのは

指で押すと皮が剥けずに

ぺこりとピンポン玉のようにへこむ。

 

大きくて強そうな種だけを選んでしっかり乾燥させ

来年のためにとっておく。

 

本当は自分で持っていたいのだが

来年になるまで憶えている自信がないので母に渡す。

 

母は使い古しの封筒に『あさがおのタネ』と書いて

お菓子の空き缶に入れて庭の物置の棚に置いた。



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